スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

孤宿の人 

宮部みゆき/著 新人物往来社

江戸の生まれながら、四国の讃岐国丸海藩に連れてこられ、たった10歳でひとりその異郷に放り出されたほう。厄介者として生まれたため躾けも受けられず、智恵も回らない彼女を、丸海藩の人々は暖かく迎え入れる。
が、この地に江戸から乱心した元・勘定奉行加賀殿が流され、ほうの運命はさらに変転することになる…

妻子を毒殺した上、部下を惨殺した加賀殿は、鬼、魔物と呼ばわれ、信心深い将軍によって遠く四国の地に流されてきます。将軍家からの預かり者として、不浄の噂のある館に幽閉され、厳重に監視される加賀殿の噂は町中に流れ、次第に人の心の中の悪鬼を引き出してしまいます。

人殺しは不問にされ、加賀殿の幽閉されている屋敷に『肝試し』に入り込んだ頑是無い子供は切り捨てられる。幕府の不評を買うまいと戦々恐々とする武士たちと、鬼が来たために雷が落ち、神社が消失したと恐れおののく庶民。毎年の夏病みさえも悪鬼の仕業である疫病とされ、次第に恐れと苛立ちを募らせる人々と、それを利用し私欲に走る人間。

最近の宮部作品には無かった、人間性の恐ろしさと危うさを書いた作品です。登場人物ひとりひとりの心情が丁寧に描写され、久々に読み応えを感じました。魔物も悪鬼も、そして御仏もひとりの人間の中に存在するもの。ほうは、その純真さゆえに、他人の心の中の御仏を引き出す存在として描かれています。

宮部氏は、「キングのような作品を書きたい」と小説家を志したそうですが、ここに来て念願成就といった感じ。市井の人々の日常を書きつつ、鬼・加賀殿の人物像と、彼を巡る幕府と丸海藩の思惑を次第に明らかにし、それと平行して、登場人物ひとりひとりの中の鬼と仏をあぶりだしていく。雰囲気としては初期の江戸ものの短編に近いです…ま、最後はあまりにキングっぽくてかえって醒める部分もありますが。でも個人的には一番好きな書き方。ユーモアを中心にした作品も悪くないけれど、やはり宮部みゆきはこうでなくちゃ!最近は図書館で借りるだけだった彼女の作品ですが、これは文庫になったら即買いです。


孤宿の人 上 孤宿の人 上
宮部 みゆき (2005/06/21)
新人物往来社
この商品の詳細を見る

シシリーは消えた 

アントニイ・バークリー著 森英俊/訳 原書房

紳士階級として優雅な生活を送っていたスティーヴンだが、遂に財産が底を付き、労働者階級の仲間入りをすることに。
彼が一番心配していたのは、生活の糧を稼がねばならないことよりも、従僕として長年仕えてくれたブリッジャーのことでした。
しかし有能なブリッジャーは、主人に打ち明けられる前に事態を察し、既に主人が従僕として働くことになっているウェントリンガム・ホールの庭師の職を手に入れていたのです。

後顧の憂いなく無事ウェントリンガム・ホールの仕事に就いたスティーヴンでしたが、女主人のレディー・スーザンは噂どおりの難物、その上上役である執事のマーティンとは、初対面からそりが合わない。
それでもなんとか仕事を始めたものの、客として現れたのが、ずっと好意を抱いていたポーリーンだとは!そして彼女をエスコートしている俗物そのものの男がフィアンセと聞かされ、一気にどん底へと落ち込んでしまいます。

いくつもの謎が入り組み、巧妙な伏線が至る所に張り巡らされた本書は、バークリーの著作の中でも一級品と呼べるでしょう。降霊会の最中に消えたシシリー、隠し部屋に漂う香水の匂い、そしてポーリーンとのロマンスと、読みどころが満載です。

そして、何より嬉しかったのは読後感の良さ。買うかどうかずっと迷っていましたが、ホントに買って良かった~。

そうそう、スティーヴンとブリッジャーの関係は、かのウッドハウス描くところの「ジーヴス」を髣髴とさせますが、バークリー自身、デビュー当時はウッドハウスを目標としていたらしいです。でも、こちらのブリッジャーはジーヴスよりもずっと従順で控えめですが(笑)。

ともあれ、古きよき英国ミステリを好まれる方にはお勧めの1冊であります。

 


シシリーは消えた シシリーは消えた
アントニイ バークリー (2005/02)
原書房
この商品の詳細を見る

プリーストリー氏の問題 

A・B・コックス/著 小林晋/訳 晶文社

落ち着いた居心地の良い独身生活を送るプリーストリー氏。しかし友人に言わせれば
「君はキャベツだ!蕪だ!ペポカボチャのカタツムリ野郎だ!」
となってしまいます。その友人に対し、「結婚を控えているのだから精神が高揚しているのだろう」と怒りもしないプリーストリー氏は本当に紳士ですねえ。

いや、傍から見れば退屈至極でも、本人がこれで満足しているんだからほおっておけば良いものを…内輪のパーティーでのちょっとした話から、警察まで巻き込んだとんでもない悪ふざけにまで発展してしまいます。
悪ふざけの首謀者ネズビット氏曰く「分別の最大の長所は、時々それを失うことができるということ」ですからねえ…でも失いすぎだってば(笑)。

スラップスティックと言いたいくらいのコメディーですが、上品に抑えてあるのは流石1927年のイギリス小説。先が読めてしまう展開だけれど、それでも充分に面白い!

そうか、今気づきましたがウッドハウスと同時代なのですね。なんか納得。

著者は推理物では「アンソニー・バークリー」心理ミステリでは「フランシス・アイルズ」と筆名を使い分けていますが、この「A・B・コックス」が本名だそうです。そして本書は、この名で書かれた最後の長編でもあります。でもこれ以前に出版された作品は全て未訳なのですよね…是非邦訳出版して頂きたいものです。

プリーストリー氏の問題 プリーストリー氏の問題
A.B.コックス、小林 晋 他 (2004/12)

晶文社
この商品の詳細を見る

ポケットから出てきたミステリー 

カレル・チャペック/著 田才益夫/訳 晶文社

この本は、数人の男性が殺人から盗難、詐欺などのあらゆる事件について、前の人の話から連想されたテーマで次の人が語り始める形式になっています。

でもこれは謎解きではなく、事件の経緯や犯罪を犯した人の信念、心情をユーモラスに、時にシニカルに綴っているので、事件そのものは重くてもとても爽やかな読後感。サボテンを宗教のように崇めるマニアたち、誘拐された赤ん坊の見分け方、判読不能な電報によって引き起こされた家族内の騒動など、人情味溢れた作品ばかりの、折に触れ何度も読み返したくなるような、笑いと美しい人間性に溢れた小品集です。

特に「人間の最後のもの」は、生きる意味そのものを問いかける、しかし押し付けがましさを微塵も感じさせない素晴らしい作品でした。

ポケットから出てきたミステリー ポケットから出てきたミステリー
カレル チャペック (2001/11)
晶文社
この商品の詳細を見る

よしきた、ジーヴス 

P・G・ウッドハウス/著 森村たまき/訳 国書刊行会 遂にバーティーの反乱です。理由は「独裁者ジーヴスからお気に入りのメスジャケットを守るため」。 ちなみに“メスジャケット”とは『夏季外洋航路における船上ディナーパーティーなどに用いられることがある。もともとは海軍の礼装のひとつで、正式ディナーの席で着られたものである。スタイルはイブニングコートのテールの部分を切り落とした形の上着で、フロントには掛けるべきボタンがない。素材は白麻もしくは白のサマーウールを使用する。』 …だそうです。知らなかった(笑)。 以前にも紫色の(!)靴下やど派手なスパッツを、彼の助言と引き換えに処分させられた苦い記憶を持つバーティー。今回は、ジーヴスの助けを求めてきた人々に「ジーヴスはコンディションが悪い。だから自分に任せろ」と大見得を切ってしまうのです。ジーヴスの助けを借りたが最後、買ったばかりのお気に入りジャケットには二度とお目にかかれなくなること間違いなしですからね。 結果…まあ予想通りではありますが(笑)。バーティーが問題を解決しようと足掻けば足掻くほど、巻き込まれる人数も増え事は更に複雑に。いやー、面白かった! 解説には「短編のスピーディーさに慣れた読者には冗漫、冗長と感じられるかも知れない」とありましたが、個人的には長編のゆったりペースがとても気にいりました。ちょっとした描写、細かい細工の緻密なこと!ゆっくり時間をかけて楽しまねば勿体無い作品であります。 でも…「Right Ho」が「よしきた、ホー」と訳されているのにはちょっと違和感かな…。

 

よしきた、ジーヴス よしきた、ジーヴス
P.G. ウッドハウス (2005/06)
国書刊行会
この商品の詳細を見る

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。