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アイルランド幻想 

ピーター・トレメイン著 甲斐萬里江/訳 光文社文庫

アイルランドを舞台にした短編集です。かなり怖かった…。古代の神々の、歴史の中で積み重ねられてきた重みがじわじわと沁みこんで来ました。
最初の「石柱」では安定路線か?とも思いましたが、読めば読むほど、その歴史の深さと人々の嘆き、そして怨念が感じられます。イギリスによる征服、そして大飢餓の恐ろしさも繰り返し語られており、これがまた筆舌に尽しがたいほどに悲惨で恐ろしい。

ローマ帝国の時代から、独自の世界を作り上げてきたケルト文明。自然を畏怖し、様々な神々と共存してきた彼らの神様は冷たく残酷で…いや、神様だけじゃない、人間も然り。物語としてはあまりに救いがないのでは?とも思えますが、ホンの数百年、いや数十年前だって自然は理不尽なものであり、支配者も時には自然以上に残酷なものであり、それに対抗する術を持たない人間たちは、ただ黙って受け入れ耐え忍ぶしかなかったんですよね。

ケルト文明やアイルランドについては通り一遍の知識しか持っていませんが、非常に興味をそそられました。ちと検索してみたら、7世紀を舞台にした小説が刊行される予定とか。是非こちらも読みたい!

明日訪ねてくるがいい 

マーガレット・ミラー/著 青木久恵/訳 ハヤカワポケットミステリ(絶版)

駆け出し弁護士のトム・アラゴンは、デッカー夫人から依頼された前夫探しを担当することになる。前夫は数年前、メイドと駆け落ちしメキシコへ行ってしまったのだ。

結婚直後に卒中で倒れ、意思の疎通がやっとの状態とはいえ夫のいる身で、デッカー夫人は何故、自分を捨てた前夫を探そうとするのか?
それだけではない、デッカー夫人は夫の知力が衰えていないと考えていながらも、夫に前夫との思い出話をし続ける。それを止める術もなく、聞き続けなければならない現在の夫…

そしてメキシコで捜索するアラゴンの前に立ちはだかる、情報提供者の死。

デッカー夫人の前夫に対する執着が凄いです。最初の妻から無理やり奪い取り、逃げられても自分が再婚してもなお、彼との思い出を語り続ける姿。夫人はあれこれと口実を並べ立てますが、その根底に流れる前夫への思いの凄まじいこと。

そして最後の数行で明かされる真実には、戦慄を禁じえません。自分の目的以外何も見えなくなっている女の恐ろしさ、我が身の危うさに全く気づかない彼女の無防備さ。
いえ、目的を達しさえずれば、我が身がどうなろうとも頓着しないのかも。

ポケミスで刊行されましたが絶版、文庫落ちもしなかった本書ですが、ミラーの円熟期の作品でもあり、他の入手可能な本と比べても決して見劣りするものじゃない。いえ、かなりの傑作と言えるでしょう。

何故これが埋もれたままなのか?納得出来ませぬな。

黒い時計の旅 

スティーヴ・エリクソン/著 柴田元幸/訳 白水Uブックス

ナチスドイツが滅びなかった世界を描いた“イフ”もの…との先入観で読んだのだけど、最初から面食らいました。父親を知らないまま育った、真っ白な髪の青年の話から始まり、次は一転して、両親や兄弟たちと暮らしながらも、常に招かれざる訪問者でしかなかったバニシング・ジェーンライトの少年時代が語られる。このふたつの話の合間に挿入された語りの意味がわかるのは読了後になってから。

世界の中心の、その人物を語っていてすらも、政治や国際情勢は、ありきたりの市井の人々の目線で語られるのみ。この書き方がまず新鮮で強く惹きつけられます。あとはもう、ただひたすら読む、無心に読む。この世界観にどっぷりとはまり込む。こんなに集中したのは久しぶり。時間は錯綜し、精緻に編み上げられた物語に幻惑される…本読みとして至福の時間を過ごしました。

これだけの複雑な物語でありながら、混乱することなく一気に読めたのは、翻訳の力も大きいでしょう。次に読むエリクソンも絶対柴田氏翻訳の作品!

これは一読では満足出来ないので、所蔵本にすべくさっさとネット書店に注文しました(読んだのは図書館から借りたハードカバー)。これは何度読んでも飽きない。何度でも読み返したい本であります。

黒い時計の旅 黒い時計の旅
スティーヴ エリクソン (2005/08)
白水社
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冬の犬 

アリステア・マクラウド/著 中野恵津子/訳 新潮クレストブックス

本書には、本国で刊行された短編集「Island」の16編中、後半の8編が収録されています。
前半の8編が収録された「灰色の輝ける贈り物」では、美しく過酷なカナダの自然とそこに生きる人々を描いており、純粋にしみじみと感動したのですが、こちらはもう少し重く、更に深みが増し輝きが増してているように感じました。「灰色の~」が素晴らしかったので自分では最高の5つ星をつけたのに、それ以上に素晴らしいとなればこれは例外として星6つをつけるしかない。
「灰色の~」とこの「冬の犬」では、作品の雰囲気がかなり違ってきているので、これを別タイトルにして分冊したのは読む側にとっても嬉しいです。流石はクレストブックス♪

出来れば未読の方には予備知識なしに踏み込んで頂きたい世界なので、個々の短編について細かい感想は控えますが、カナダの大自然と共に生きる人々の、自然と密着した生活とその中で起きる人間模様が繊細な筆致で描写されています。生きること、生き抜くこと、自分の生き方を守ること、そしてそんな人々に容赦なく襲い掛かる時代の波…。

生きるとは何か?ではなく、自然と生命の不可思議さをごく自然に受け入れ、共存し、時に残酷で時に過酷な人生を如何に生きるか。静かな力強さと、生命そのものの輝きに満ちた作品でした。


冬の犬 冬の犬
アリステア・マクラウド (2004/01/30)
新潮社
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パディー・クラーク ハハハ 

ロディ・ドイル/著 実川元子/訳 キネマ旬報社

1960年代アメリカ。10歳のパディは悪戯ざかり。いつも友達や弟と、あれこれとんでもないことをやらかして日を送っている。ピンポンダッシュなんて序の口。空き地で密教ごっこ(これが痛そう)、口の中にガソリンを入れて火をつけたり、家から離れた場所にある商店街で万引きしたり、弟をトランクに閉じ込めたら開かなくなったり…かと思うと「女性はおならができるかできないか」を大真面目で議論し、サンタさんを信じているフリをし、一所懸命にスペルを覚え、一対一の真剣な喧嘩も。

そんな日常の中に、両親が次第に不仲になっていく様子が織り込まれます。日常的な口げんかから暴力へ。冷たい空気の流れる家の中で、パディは心を痛め、家出まで考えます。
子供の持つ純粋さと残酷さ、素直さととっぴさがリアルに描かれ、面白おかしく読み進むうちに、最後の一行で涙、涙。

思わず彼らのその後までをも本気で心配してしまうほどの描写力は、流石93年のブッカー賞受賞作。彼らの悪戯はかなり過激ですが、眉を顰めない自信のある方にはお勧めです…いえ、ホントに凄いのですよ彼ら(笑)。

パディ・クラーク ハハハ / ロディ・ドイル、実川 元子 他

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