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蝿 

ジョルジュ・ランジュラン/著 稲葉明雄/訳 早川書房

最初にこれの文庫を買ったのは、映画「ザ・フライ」の公開直後でした。今調べてみたら1986年の映画だから、翌年公開&出版されたとしても18年も昔の話。それに、後に紛失してしまったので、表題作「蝿」以外の記憶は朧…覚えている作品も、印象に残っていた読後感と今感じるものが微妙に違うんですよね。だから長い空白の後の再読って面白い。

「蝿」
まあ、大筋は覚えていたので安心(笑)。しかし…初読のときは思わなかったけど、トウィンカー警部っていい味出していたのね。

「奇跡」
これも印象が強かった作品。皮肉と言うか、かなり意地悪だよねこれは(笑)。しかし10数年の月日は、読み手の受け取り方を変えてしまったのだ。以前は主人公の嫌らしさに嫌悪感を抱き、ラストににんまりしたのだったが…今は奥さんが気の毒にも感じる。

「忘却への墜落」
これはすっかり忘れてた。同情の余地はあるか…?いや、あまりないな、どっちにも。だからこそ面白く読めるのかも。

「彼方のどこにもいない女」
これも忘却の一編。
だけど忘れていて良かったかも…かなりきついですね、これも。メアリイの仲間達はこれを予期していたのか?うーむ。

「御しがたい虎」
虎の身になって考えると思いっきり頷ける(笑)。ランジュランの書く人間は、善人なんて間違っても言えないけれど、妙にかわいらしかったりするんだよな…。

「他人の手」
これは初読のときも衝撃だったけれど、十数年を経ても同じでした。下手な理屈をつけないで戦慄を楽しむ一編ですね。しかし…こわい。

「安楽椅子探偵」
ほのぼの感の漂う、優しい味わいの作品。この短編集の中では異色かな(笑)

「悪魔巡り」
犬が出てくる短編が多い。で、犬は仲間猫は敵…著者の好みですかな、他にも散見。だけど、洗礼受けてると駄目なの?だったら、悪魔さんって昔は獲物見つけるの大変だったろうなぁ。異教徒でも可?

「最終飛行」
これも「安楽椅子探偵」と同じく暖かい雰囲気。あっちほどほのぼのではない…かな。でも静かで優しい作品だ。アホウドリの登場では「マロリオン物語」を思い出したけれど、西欧でのアホウドリってこういう印象なのかな。

「考えるロボット」
残念ながら古びてしまった作品。当時読んだら面白かったんだろうけど…でもサスペンス度は一番です。

10数年あけて読んで自分の記憶力の乏しさに涙した作品でしたが、忘れてたからこそまた楽しめた訳で…ま、いいことに(笑)。
1950~60年代の短編ってやっぱり好き、一番自分に馴染むように思います。ジョルジュ・ランジュランは、いまだに邦訳されない作品のほうが多いのだけれど、最近この時代の小説が相次いで出版されていることだし、これを機会にもっと邦訳して欲しいものです。


蝿(はえ) 蝿(はえ)

ジョルジュ ランジュラン (2006/01)
早川書房
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半七捕物帳 

岡本綺堂/著 春陽文庫

昨年池波正太郎の固め読みをしましたが、あの雰囲気が忘れられなくなってしまい、今度は大正文学「半七捕物帖」へ。
明治の世、引退して悠々自適の生活を送っている半七老人のもとへ通った『私』が聞き書きをした…という設定になっています。

「鷹のゆくえ」はちとご都合主義じゃ?とも思えますが、面白いからいいや(笑)。「津の国屋」は幽霊譚が実は…という内容で、この巻の収録作品では一番好き。特に最後の半七の台詞「昔の悪党は今の善人より馬鹿正直」が最高です。江戸情緒と明治の雰囲気が同居する設定も良いなぁ。

収録作品
お文の魂/石灯籠/鷹のゆくえ/津の国屋/湯屋の二階/お化け師匠/広重と河獺/三河万歳/海坊主/化け銀杏

半七捕物帳 (2)

雷獣一つ目小僧に化け猫鬼娘と、あやし系の物語が目立つ巻。明快に解決できた事件だけじゃなく、ところどころに常識では解き明かせない謎も残っちゃうところが雰囲気を高めています。特に「弁天娘」…深読みするとあまりに哀れ。
それと「雪達磨」の南京玉の使い道にはちとびっくりしました。これってガラス製だと思ってたのだけど、調べたら陶製もあるのね。

「南京玉ー陶製やガラス製の小さい玉。糸を通す穴があり、指輪や首飾り、刺繍(ししゆう)の材料などにする。ビーズ。」

だそうな。ビー玉様のものを思い浮かべてたから違和感あったんだな…江戸も明治も遠くなりにけり。

収録作品
弁天娘/山祝いの夜/冬の金魚/雷獣と蛇/一つ目小僧/勘平の死/雪達磨/鬼娘/槍突き/猫騒動/春の雪解/むらさき鯉/半鐘の怪
半七捕物帳〈3〉
維新前の混乱と仇討ちが同居する時代ならではのラインナップ。庶民にとっても怒涛の数年間だったのだろうなあ。「あま酒売り」は、似たような物語をハミルトンの「眠れる人の島」で読んだばかり。こういう伝説って洋の東西を問わずあるものなのですね。「小女郎狐」のけなげさ、そして「奥女中」の哀れさと優しさが心に残りました。

収録作品
旅絵師/女行者/朝顔屋敷/帯取の池/異人の首/奥女中/あま酒売/半七先生/蝶合戦/筆屋の娘/人形使い/小女郎狐

半七捕物帳〈4〉

「三つの声」は、筋立ては元よりテンポも良くて、舞台で演じたら面白いだろう一編。「柳原堤の女」は…第一巻の「三河万歳」でも感じたのだけれど、この時代の、何らかの異常を持って生まれた人間に対する偏見って凄かったようです。これって鎖国の弊害かもね、殆どの人間が一生同じ人種、同じ考え方の人間しか知らずに暮らしていたのだから。
いえ、現代でもまだこういう考え方から抜け切れない人って居ますけれど…でも、偏見を持った人が存在する背景を考えることによって、それを無くす社会への道が見えてくるのではないだろうか。遮二無二「差別用語はいけない」とか言って言語統制を布くのは、偏見をただ深いところに押し込めるだけじゃないのかな…いえ、勿論規制が悪いとは思いません必要性は認識してますが。うーん難しいっ。

収録作品
狐と僧/松茸/仮面/柳原堤の女/張子の虎/お照の父/向島の寮/三つの声/少年少女の死/熊の死骸/十五夜御用心/金の蝋燭
半七捕物帳(5)

この巻は文明開化の香りでした。南蛮渡来のズウフラ(拡声器?)に唐人飴、そして種痘。
「河豚太鼓」の種痘をすると牛になるっていう噂…いえ、当時の人にとっては冗談では済まなかったんでしょうね。こういう思い込みが生んだ悲劇って結構あったんだろうなと思います。そして「妖狐伝」では、異人が次第に江戸市中に入り込んで来た様子が。と言っても時はお江戸の爛熟期でもあり、「正雪の絵馬」ではコレクター心理、「大坂屋花鳥」では天保の改革が扱われていたり。新旧が混在する激動の時代と、それでもいつの世も変わらぬ庶民の生活が描かれた巻でした。

収録作品
ズウフラ怪談/大阪屋花鳥/正雪の絵馬/大森の鶏/妖狐伝/新カチカチ山/唐人飴/河豚太鼓
半七捕物帳〈6〉

吉良の遺品、お化け屋敷に菊人形と来たかと思うと、写真好きの異人が登場したり…この巻も、幕末の香りが漂います。菊人形って幕末にやっと出てきた、比較的歴史の浅いものだったのね、知らなかった。
いつも感じるのだけど、芝居好きの半七老人の語る、楽しげな薀蓄を理解できないのが悲しい。十手持ちだった若き日の姿も良いけれど、やはり飄々とした好々爺の半七が最高です。

収録作品
かむろ蛇/幽霊の観世物/菊人形の昔/蟹のお角/青山の仇討/吉良の脇差/歩兵の髪切り/川越次郎兵衛
7巻
十手持ちの半七が牢抜け者と間違われる、とぼけた味わいの「廻り燈籠」、盗難事件だけど読後感がほのぼの「夜叉神堂」。いいですねえこういうの。そして最後の中篇「白蝶怪」は、入り組んだ筋立てで、長編にしても良さそう。

収録作品
廻り灯籠/夜叉神堂/地蔵は踊る/薄雲の碁盤/二人女房/白蝶怪



明治の世、隠居している元岡っ引きの半七親分が語る思い出話の数々。幕末の江戸情緒、そして華やかな明治の東京を満喫させてくれた作品でした。
著者の岡本綺堂は明治5年の生まれ。日々目まぐるしく変わり、どんどんと成長していく文明開化の東京で育ち、周囲の大人から、お江戸の昔話をたんと聞かされて育ったのでしょうね。会話の端はしに、今では使われない言い回しや江戸言葉が出てくるし、既に死語になり、辞書で調べてやっと納得するような言葉が当たり前のように話されている。いえ、勿論このシリーズの一番の魅力は、老いてなお粋な江戸っ子半七親分そのものなのだけれど。
 

エムズワース卿の受難録 

P・G・ウッドハウス/著 岩永正勝・小山太一/訳 文藝春秋

やっと出ました文春ウッドハウス選集第二弾。
今回は、美しい庭と豚とをこよなく愛する伯爵、エムズワース卿のお話です。

伯爵は「一時にひとつのことしか考えられない男」。なので、心配事があるときに誰かが生きるか死ぬかの相談を持ちかけたって上の空、彼の心は南瓜若しくは豚のもの。なのに彼の周りには、常に厄介な問題事が頻出するからたまったものじゃありません…周囲も伯爵ご本人も。

この本に収録された作品のうち、エムズワース卿の人となりが全面に押し出された「豚、よォほほほーいー!」「伯爵とガールフレンド」と「ブランディングズ城を襲う無法の嵐」の3作品は、特に気にいりました。

「豚、よォほほほーい」は、とーっても浪漫ちっくな作品なのでありますが、ロマンスも伯爵にかかっては豚の二の次三の次。この伯爵の習性が運命を決めちゃう、それで良いのか。
「伯爵とガールフレンド」は、伯爵の人となりがしっかりと描かれ、笑っているうちにほろりとさせられる。伯爵、素敵です。
そして「ブランディングズ城を襲う無法の嵐」では…ここでいろいろ暴露したいのは山々ではありますが、もし私が未読のうちにストーリーを聞かされたら、その人に殺意を抱いたと思われるので割愛致します。スラップスティック度が一番高いとだけ申し上げておきましょう。これは予備知識なしに読むしかないです、ホント。

と、べた褒めで終らせたいところなのですが。
実は伯爵の次男坊フレディーが中心となる作品については、どうも合いませんでした。面白さはわかるのですが、最後まで感情移入出来なかったのです。登場人物が多いのも原因かな?フレディーや彼にまつわる人々の、一人ひとりの個性が飲み込めないまま終ってしまった感じ。
勿論、こちらのほうを面白く思われる人も数多くいらっしゃるでしょう。あくまで好みの問題です、はい。

そうそう、忘れちゃいけないN・T・P・マーフィー氏による序文、これは読み飛ばしてはいけません。この序文を読むと、本編が更に面白く興味深くなります。そして巻末のA・B・コックスの手によるウッドハウス風の文体で綴られたホームズのパロディーは必見!もう本編に負けず劣らず面白いっ。オチも最高です。

ついでに…

下の書映にはありませんが、この本帯がまた良いのです。本の2/3という大きさ、ピンクの豚のイラスト、そしてそこに書かれた宣伝文句には、否応無しに惹き付けられてしまいます。

豚ちゃんや。
わしはおまえと
カボチャと美しき庭が
安泰ならいいのじゃ。
なのに起きるのは騒動ばかり、
どうしたらいいかのう。

そして、カバーをめくるとそこには…

文藝春秋と国書のウッドハウス戦争。内容は甲乙付け難いですが、装丁は文春に軍配を上げたい。あ、冊数と価格は国書です念のため(笑)。

収録作品
序文(N・T・P・マーフィー)/南瓜が人質/伯爵と父親の責務/豚、よォほほほーいー!/ガートルードのお相手/あくなき挑戦者/伯爵とガールフレンド/ブランディングズ城を襲う無法の嵐/セールスマンの誕生/伯爵救出作戦/フレディーの航海日記/天翔けるフレッド叔父さん/文体の問題、あるいはホームズとモダンガール(A・B・コックス)



エムズワース卿の受難録―P.G.ウッドハウス選集〈2〉 エムズワース卿の受難録―P.G.ウッドハウス選集〈2〉
P.G. ウッドハウス (2005/12)
文藝春秋
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クライム・マシン 

ジャック・リッチー/著 好野理恵/訳 晶文社

久々に嬉しい短編集を読みました。

簡潔な文体、ウイットに飛んだ会話、ひねりの効いたストーリー展開、そして見事なラスト。50~60年代の短編を髣髴とさせる洒落た雰囲気…と思ったら、やはり書かれたのはこの時期でしたね。なのに短編集としてまとめられたのは本国でも1冊きり、日本ではなんとこの本が最初とは。これだけの作家が埋もれていたなんて勿体無いのなんの。読めば読むほどもっと読みたくなるような、中毒性のある作品ばかり。20世紀半ばの雰囲気を色濃く残しながらも、40年以上経った現在でも、全く古さを感じさせないことに今さらながら驚かされます。

表題作の『クライム・マシン』は「あなたの犯行は全てタイムマシンから見ていた」と告げられた殺し屋の物語。そして不治の病に罹った男の、残された時間の過ごし方『歳はいくつだ』の、妙に親近感を抱いてしまう描写や、異色中の異色探偵カーデュラの活躍を描いた連作『カーデュラ探偵社』他3編も非常に面白いのですが、特に衝撃だったのはやはり中年女性二人の、互いの話を聞かずに自分のことばかりを話しながらも会話が成立しちゃうという妙技(笑)から炙りだされる真実を描いた『旅は道連れ』であります。勿論他の短編も粒揃い。フレドリック・ブラウンやヘンリー・スレッサー等々がお好きだった方には是非是非読んで頂きたい短編集です。

そうそう、今年の『このミステリーがすごい』では堂々の第一位だったようです。これまでは相性のよい作品が少なかった『このミス』ですが、これで見直したわい(笑)。これで続刊が刊行されたらもっと嬉しいのになあ。

夜明けのフロスト 

R・D・ウィングフィールド・他/著 芹沢恵・他/訳 光文社文庫

クリスマス休暇になると毎年大事件が勃発しているんじゃないか?この街は。この時期のデントンには出来る限り近づきたくないものである。

短編なのでどうかな?と思ったけれど、内容は充実。100ページの中にクリスマスの早朝に捨てられた赤ん坊、行方不明のティーンエージャーに百貨店の盗難、殺人と盛りだくさん。
長編と違うのは、フロスト警部が比較的大人しいことか。人差し指が活躍しないし(笑)。だけど趣味の悪いジョークは楽しめますよ。あ、そうそう。アレン警部が出てこない。ま、彼はクリスマス休暇をしっかり取って、何処かでお上品に過ごしているんだろうけど(笑)。

収録作品は他に6編。
エドワード・D・ホック「クリスマスツリー殺人事件」
ナンシー・ピカード「Dr.カウチ大統領を救う」
ダグ・アリン「あの子は誰なの?」
レジナルド・ヒル「お宝の猿」
マラー&ブロンジーニ「わかちあう季節」
ピーター・ラヴゼイ「殺しのくちづけ」
でもまだ読んでいないし(笑)。こっちはゆっくり楽しみます。

ところで、創元の第四弾はいつになるんだろうか?

夜明けのフロスト 夜明けのフロスト
R・D・ウィングフィールド (2005/12/08)
光文社
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