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殺人展示室 

P・D・ジェイムズ/著 青木久恵/訳 ハヤカワポケットミステリ

 第一次大戦と第二次大戦に挟まれた数十年間をテーマにしたデュペイン博物館。貴重な初版本や絵画も展示されているが、人々の興味が集まるのは、この時代の有名な犯罪を扱った「殺人展示室」だった。その博物館で実際に殺人事件が起こる。しかも、事件の状況や、その場から逃げ出すように去った青年の残した言葉が、展示の中の有名な事件に奇妙なくらい酷似していたのだ… 前作はあまり好みではなかったのですが、今回はしっかり面白かったです。相変わらず起伏に乏しい展開ではあるものの、お得意の人物設定、性格描写が特に生きているように思いました。タリーとライアンのぎくしゃくした交流での、エゴイズムとキリスト教的博愛精神のせめぎ合いなんて、やはりこの人ならではですね。このあたりの描写や、ミス・ゴドビーの過去の描き方は流石に巧い。第二の殺人には少々安易な感じも受けましたが、一人ひとりの性格を細かに描写した上で展開する物語はやはり読み応えがあります。でも。でもですよ。個人的にはコーデリア・グレイの心を捉えた「孤高の詩人」ダルグリッシュ警視長よ永遠に!なのでありますが…次回作で彼はどうなってしまうのでしょう?余りに急激な変化の予感。何か読むのが恐いような気もします…でも気になるっ。

殺人展示室 殺人展示室
P.D. ジェイムズ (2005/02)
早川書房
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邪魔をしないで 

ミュリエル・スパーク/著 深町真理子/訳 早川書房

ひたすらに「その時」を待ち続ける使用人たち。彼らは既に、記者に与える談話を考え、回想録まで練っています。他の名家からも引く手あまたの有能な彼らですが、彼らの才能はこのような場合でも遺憾なく発揮されているようです。次々に訪れる邪魔者を排除しつつ「その時」に備えて、深夜着々と準備をしている彼らの姿は外の嵐とあいまって、恐ろしさと同時に紛れもない滑稽味をも湛えています。
古典的な演劇手法『場の一致 時の一致 筋の一致』に則り、ブラックユーモアに溢れたこの小説を読んでいると、まるで舞台劇を見ているかのように登場人物たちの動きや表情が浮かんできます。そして伏線の巧妙さはさすがスパーク。
この作品、舞台化はされていないのかな?是非是非観たい、出来れば執事はサー・ジョン・ギールグッドで…って無理か(笑)。

シンポジウム 

同棲中の画家と未亡人が、友人を集めて開いたちょっとしたパーティー。話題の中心は、ある富豪女性の一人息子の結婚相手について。まあ、ごく普通の親睦会です。しかしここに集う人々は、普通のようでいて、なんか半歩ずれている人ばかり…留守中に泥棒の被害に遭い「これは強姦だ!暴行だ!」と騒ぎ立てる男。彼にうんざりしている妻は、夫の悪口を先妻の娘に書き送り、お年頃の青年はぬいぐるみを抱いて寝る。

この本に出てくる人物の中で、実際に異常者の烙印をおされているのは、病院を出たり入ったりしているマグナスひとりだけですが…
このマグナスのかき方がなんとも凄い。「実際に罪を犯した奴は後ろめたくは思わないもんだ。有頂天になり、勝ち誇り、自分を大したもんだと思うさ」との台詞を吐く下りなんて、彼の爛々と光る瞳を現実に覗き込んでしまったような錯覚さえ覚えます。

ストーリーは富豪の息子(ぬいぐるみ青年)を射落としたマーガレットを巡って静かに淡々と進んでいくのですが、なにげなく記された言葉に隠された伏線、一人ひとりの性格描写の緻密さはもう職人芸と言えるかも。
しかしここに集う面々には、プラトンの「饗宴」の方々もびっくりでしょうなあ…。

運転席 

ミュリエル・スパーク/著 深町真理子/訳 早川書房

些細な一言でヒステリックに噛み付く、エキセントリックな30代半ばの独身女性リズ。彼女が休暇を過ごす為に買い求めた衣服はレモン・イエローの上半身、スカートはオレンジ、紫、ブルーに染め分けられており、上に羽織るのは赤白縞模様のサマーコート…鮮やかなんてものじゃない、派手という言葉ですら弱すぎる。しかも丈は10年も流行遅れという野暮ったさ。
勿論彼女はあちこちでトラブルを起こすのですが、そんなことは全く気にかけず、彼女はひたすら顔も姿も年齢すら分からぬ「彼」を探すのです。当たり前の女性なら探すのは一夜のアバンチュールの相手か、生涯の伴侶なのでしょうが、リズの言動を見ていると、そんなありきたりの相手とも思えません。彼女がこの後どうなるかは最初から明かされているのですが、何故そうなるのかは最後まで分からない。いえ、読みながら「何故?」などと疑問を持つ暇はありません。ただただ惹きつけられ、活字を追うだけで精一杯。
この小説のエピソードのひとつひとつは、ものの見事にラストにて結集します。クリスティー女史のお言葉を拝借すれば、全ては「ゼロ時間」ただ一点へ向かってまっしぐらに突き進むのです。そして、読後の重苦しさの中に、不思議な達成感すら感じます。この感覚はなかなか得られるものじゃありません。

しかし、この著者の作品は現在殆どが絶版であります。しかも、古書の世界では恐ろしい高値がついているのです。一作読めば、この作者がメジャーにならなかったのも、絶版久しい本だと言うのに今だ大枚はたいて求める人が絶えぬのも納得がいくのですが…何処かの古書店に私の買えるような値段で置いてはいないものでしょうか。薄っぺらな財布を眺めながら、ただ溜息をつくしかありません。この本をおすすめ下さったおはなさん、本当にありがとうございました。また貧乏街道を驀進することになっても後悔致しませぬ。

願い星、叶い星 

アルフレッド・ベスター/著 中村融/訳 河出書房

この本、だいぶ前に買ったのですが、ついつい寝かせてしまった…実は、他の皆様の好評に釣られて購入したものの、この著者の唯一の既読作「虎よ!虎よ!」がイマイチ好みじゃなかったのです。でもそれは全くの杞憂でした、面白かった~。
「願い星、叶い星」
これは既読でした、しかも収録されたアンソロジーの中でもお気に入りだった短編。これがベスターだったとはっ。冒頭の「作文」から、失踪に纏わる謎、そしてラスト。一気に読ませて、いつまでも忘れられない一編です。
「ごきげん目盛り」
冒頭から血なまぐさくちょっと引いてしまいましたが、これも読み応えのある短編。「わたし」が彼であるのかアレであるのか、この描き方は余人の追及を許しますまい。
「昔を今になすよしもがな」
うーん、日本人の心をくすぐるこのタイトル。これは翻訳者のお手柄ですな。つい「しずやしず~~」と詠いたくなってしまいますが。書き尽くされた感のあるこのテーマ、でも切り口の斬新さが心捉えます。
他の短編も、古いSF好きの心を掴む秀作。今読んでも古びません。「イヴのいないアダム」は、この小説の後に同様の話がかなり書かれてしまったのでショック度が薄れてしまったでしょうが…。
ともあれ、ベスターの長編は好みに合わなくても、短編はとっても好みです。
しかしこの“河出書房 奇想コレクション”って、いい作品ばかりが揃っているような…文庫化は望めないだろうし、思い切って全巻揃えるしかないかなあ。そうそう、スタージョンの「輝く断片」もこのシリーズに入るのですよね…待ち遠しいったら。

収録作品
ごきげん目盛り/ジェットコースター/願い星、叶い星/イヴのいないアダム/選り好みなし/昔を今になすよしもがな/時と三番街と/地獄は永遠に

願い星、叶い星 願い星、叶い星
アルフレッド・ベスター (2004/10/22)
河出書房新社
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