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英国紳士、エデンへ行く 

マシュー・ニール/著 宮脇孝雄/訳 早川書房

 

タイトルや出版社の紹介から予想していたのとはかなり違った。でも買って良かった~。

約20人の登場人物が交互に語り手を務める構成。このあたりは巧みですね。一人一人の性格が浮き彫りになって、この長さなのに飽きずに読み進まてくれます。

 

物語の始まりはヴィクトリア朝英国。ひとりの石の収集を趣味とする牧師が、ある日地質学の書籍を読み義憤にかられるのだ。「神がこの世界を作りたもうてからまだ六千年しか経っていない。なのに十万年前の時代の石灰岩だって?ありえない!」

彼は自説を発表し、聖書に書かれている「真実」を受け入れようとしない地質学者たちと論争を繰り広げる。果ては「エデンの園はタスマニアにある」と主張し、それを裏付けるために南半球への探検を決意するのだ。

 

。時代が生んだ、偏狭な信念を持つ人は彼だけではない。本書に登場する白人たちは、人種的偏見に凝り固まった医師、タスマニア原住民アボリジニの人々を救うためにと本来の住処である森から引き離し、キリスト教と“文化的な”生活を押し付ける移住者など、みな多かれ少なかれこの傾向を持っている。もう小さな親切大きな悲劇。それが原因で、たった50年でひとつの種族が滅亡してしまうのだから狂信者恐るべし!なのでる。

 

重くなりがちな物語を救っているのは、マン島出身の遠征船の船長以下乗組員たちだろう。元々が密輸を企てたものの思うように行かず、雇い主を探すまでに追い詰められた小悪党共なのだが、彼らは自分自身の信念を大事にし、他人のことには口を挟まない。とにかく密輸品を捌いてマン島に帰還するだけが目的なのだ。このあたりは英国風スラップスティック風味が利いていて、この物語の清涼剤となっている。彼らは最後の最後までブラックな笑いを振りまいてくれています、ありがとう。

 

そしてもう一人、大きな位置を占める語り手がアボリジニと白人の混血として生まれた少年ピーヴェイ。彼の一代記だけでも読み応えのある小説になりそうだ。

 

読後感は決して良いとは言えないけれど、それでもとても読み応えがあり引き込まれる。万人向きとは言い難いだろうが、正に帯に書いてある「物語を読む楽しみに溢れた」本でありました。

 

 

英国紳士、エデンへ行く (プラチナ・ファンタジイ) (プラチナ・ファンタジイ) 英国紳士、エデンへ行く (プラチナ・ファンタジイ) (プラチナ・ファンタジイ)
マシュー・ニール (2007/10/25)
早川書房
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幼き子らよ、我がもとへ 

ピーター・トレメイン/著 甲斐萬里江/訳 創元推理文庫

 

前作でも感じたのだが、なぜこのシリーズを第一作から翻訳刊行してくれないのだろう?出版社側は「第4作が一番読み手の興味を引き付ける」と考えたらしいが、シリーズは第一作で主要人物や背景の大まかな説明、その後次第に深く、その時代や登場人物に入り込んで行く過程を楽しむのが醍醐味ではないのか。せめて次の刊行は第一作に戻って欲しい。そしたら順を追って読み直すから。



で、今回はシリーズ第2作。

 

モアン王国の後継者である兄の依頼で、修道院でおきた殺人事件を調査することになったフィデルマ。折しも国内には疫病が蔓延しており、彼女は旅の途中で「疫病を阻止するため」と称した虐殺を目撃、運良く生き延びた数人の子供たちを保護する。


相変わらず性格的に不愉快な(笑)主人公フィデルマではあるが、物語はやはり面白い。

時代背景の興味深さと現代でも先進的といえるであろう法律、キリスト教と土着のケルト信仰の融合と反発。 このあたりをもっと詳しく説明しているであろう第一作がさらに読みたくなる。
それでも話の筋を追うのには問題なし、ミステリとしても読み応え充分。入り組んだ人間関係や国内情勢もすんなりと頭に入るのは著者の筆力ですなー。満足満足。

 

 

ブランディングズ城の夏の稲妻 

P・G・ウッドハウス/著 森村たまき/訳 国書刊行会

 

文藝春秋の「エムズワース卿の受難録」も面白かったけど、こっちは個人的に好みの長編である。期待も高かったのだけど今回も満足、まんぞく。

やはりゆったりとした展開、策を弄しすぎてにっちもさっちも行かなくなる登場人物の可笑しさって長編ならではなんですよね。現代では間延びしている、まだるっこしいと感じられてしまうのかも、とは思うけど。

 

エムズワース卿と恐怖の叔母様レディー・コンスタンス、何故か繰り返し雇われては消え去る秘書バクスター。そういえばバクスターって、かの名作「ブランディングズ城を襲う無法の嵐」でもひどい目にあってほうほうの体で逃げ出したのだったな(笑)。

 

今回は甥のロニーと姪ミリセントのそれぞれの恋愛模様が絡み合い、バクスターと探偵パーシーの小悪党が小賢しさを競い、誤解と欲望と陰謀の人間模様が展開されるのである…まあ皆さん揃いも揃って単純ですこと(笑)。そしてそこに花を添えるのが素敵に格好いいギャラハドおじさま。このギャリー叔父はこの作品から登場し、即この城に無くてはならない人物としてシリーズに君臨するそうである。

 

この優雅なおじさまの活躍をもっともっと読みたいものだ。このあと「ブランディングズ城は荒れ模様」も予定されているが、是非これからもどんどん出し続けて欲しい。…値段もさることながらこの大きさを考えると頭が痛いのだけれど。もうそろそろ専用書棚を用意せねばなるまいか。

 

ブランディングズ城の夏の稲妻 (ウッドハウス・スペシャル) ブランディングズ城の夏の稲妻 (ウッドハウス・スペシャル)
P.G.ウッドハウス (2007/09)
国書刊行会
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ゴーレム100 

アルフレッド・ベスター著 渡辺佐智江/訳 国書刊行会

 

本を開き、一ページ目を読み始めた途端に目に飛び込んでくる言葉にまずびっくり。

こ、これは何だ?と思いつつも読み続ける。

そして思う。「プロローグはまだまだ許容範囲内だった」

 

それでも面白いのだ。8人の有閑レディーが召喚してしまった「ゴーレム100(100乗)」が引き起こす残虐な事件と、それを解決すべく奮闘する科学者、精神工学者、警察官の3人。ストーリー的には結構単純?と思いきや、後半には急展開。息をもつかせぬアクションと、随所に挟まれる図形にイラスト。ここまで来る頃にはもう、多少のスプラッタや異常行動や阿鼻叫喚すら気にする余裕などない。ダジャレや下ネタ満載の、しかも一部句読点まで排除している言葉遊びの集約とも言える文体にもめげずとにかく次へ、先へ、結末へ。

 

この結末がまた凄いんです(笑)。

 

これが「翻訳不可能」と言われていたのも頷ける。でありながらここまで訳出された翻訳者の腕にも脱帽。読み進めつつ「とんでもない翻訳だなあ」と感じていたのだが、それが原文に忠実な訳文というのだからまた驚き。

 

これが本国で刊行されたのは1980年。もしその頃に翻訳が出たとしても、到底ついていけなかっただろう。個人的には今この時に読めて幸運だったと思う。

 

そういえば同じくベスターの「虎よ、虎よ」を読んだのは丁度1980年頃だった。

しかしあまり面白く思えず、以来読み返すこともほとんどないままにこの本は行方不明になってしまったのだ。その後出た「願い星、叶え星」は面白かったけれど、長編は合わないのだと思い込んだおかげで、今回この本を手に取るまで何度逡巡したことか…

もしかして、「虎よ、虎よ」も今読んだら面白かったのかも?どこかで見つけたら再読してみよう。

 

 

ゴーレム100 (未来の文学) ゴーレム100 (未来の文学)
アルフレッド・ベスター (2007/06)
国書刊行会
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輝くもの天より堕ち 

ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア/著 浅倉久志/訳 ハヤカワ文庫

銀河系のはるか周辺部、星ぼしの果てるところにある惑星ダミエム。空に輝くのは「殺された星」のノヴァの光、住んでいるのは妖精のように美しく儚い人々…

 

人類の欲望のための犠牲にされていたこの星の住人を保護するために任命された連邦行政官であるキップら3名と、最後のノヴァの輝きを見に訪れた観光客の一行という限られた人数の中で起きる事件。 閉鎖的な環境といえばこれ以上のものはないでしょう。そこで犯される犯罪と犯人探し、封印された過去から蘇る忌まわしい記憶と、主人公たちが陥る絶体絶命の危機。なんて盛りだくさんで贅沢なエンタティーメントであることか。

 

人間の内面を深く掘り下げていくようなSF、頭を絞りに絞って自分なりの解答を求めねばならないSFも嫌いではないですが、195060年代の米国SFに馴染んだ自分としては「これぞSF」なのです。「殺された星」にまつわる物語や、そこに住んでいた種族の最後の一人が言う台詞なんてもう「これぞSF」なのです。

 

…ミステリ部分については、犯人像が他の登場人物に比べると薄っぺらで類型的と感じちゃうのですが。

 

それでも人類の崇高さと残酷さ、償いきれない罪、そして明日への希望を(多少の苦さが混じるところがまた…)古典的手法を用いながらも余すことなく描き上げています。

 

やっぱりティプトリー・ジュニアはすごい。

輝くもの天より墜ち (ハヤカワ文庫 SF テ 3-6) 輝くもの天より墜ち (ハヤカワ文庫 SF テ 3-6)
ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア (2007/07)
早川書房
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