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冬の犬 

アリステア・マクラウド/著 中野恵津子/訳 新潮クレストブックス

本書には、本国で刊行された短編集「Island」の16編中、後半の8編が収録されています。
前半の8編が収録された「灰色の輝ける贈り物」では、美しく過酷なカナダの自然とそこに生きる人々を描いており、純粋にしみじみと感動したのですが、こちらはもう少し重く、更に深みが増し輝きが増してているように感じました。「灰色の~」が素晴らしかったので自分では最高の5つ星をつけたのに、それ以上に素晴らしいとなればこれは例外として星6つをつけるしかない。
「灰色の~」とこの「冬の犬」では、作品の雰囲気がかなり違ってきているので、これを別タイトルにして分冊したのは読む側にとっても嬉しいです。流石はクレストブックス♪

出来れば未読の方には予備知識なしに踏み込んで頂きたい世界なので、個々の短編について細かい感想は控えますが、カナダの大自然と共に生きる人々の、自然と密着した生活とその中で起きる人間模様が繊細な筆致で描写されています。生きること、生き抜くこと、自分の生き方を守ること、そしてそんな人々に容赦なく襲い掛かる時代の波…。

生きるとは何か?ではなく、自然と生命の不可思議さをごく自然に受け入れ、共存し、時に残酷で時に過酷な人生を如何に生きるか。静かな力強さと、生命そのものの輝きに満ちた作品でした。


冬の犬 冬の犬
アリステア・マクラウド (2004/01/30)
新潮社
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パディー・クラーク ハハハ 

ロディ・ドイル/著 実川元子/訳 キネマ旬報社

1960年代アメリカ。10歳のパディは悪戯ざかり。いつも友達や弟と、あれこれとんでもないことをやらかして日を送っている。ピンポンダッシュなんて序の口。空き地で密教ごっこ(これが痛そう)、口の中にガソリンを入れて火をつけたり、家から離れた場所にある商店街で万引きしたり、弟をトランクに閉じ込めたら開かなくなったり…かと思うと「女性はおならができるかできないか」を大真面目で議論し、サンタさんを信じているフリをし、一所懸命にスペルを覚え、一対一の真剣な喧嘩も。

そんな日常の中に、両親が次第に不仲になっていく様子が織り込まれます。日常的な口げんかから暴力へ。冷たい空気の流れる家の中で、パディは心を痛め、家出まで考えます。
子供の持つ純粋さと残酷さ、素直さととっぴさがリアルに描かれ、面白おかしく読み進むうちに、最後の一行で涙、涙。

思わず彼らのその後までをも本気で心配してしまうほどの描写力は、流石93年のブッカー賞受賞作。彼らの悪戯はかなり過激ですが、眉を顰めない自信のある方にはお勧めです…いえ、ホントに凄いのですよ彼ら(笑)。

パディ・クラーク ハハハ / ロディ・ドイル、実川 元子 他

孤宿の人 

宮部みゆき/著 新人物往来社

江戸の生まれながら、四国の讃岐国丸海藩に連れてこられ、たった10歳でひとりその異郷に放り出されたほう。厄介者として生まれたため躾けも受けられず、智恵も回らない彼女を、丸海藩の人々は暖かく迎え入れる。
が、この地に江戸から乱心した元・勘定奉行加賀殿が流され、ほうの運命はさらに変転することになる…

妻子を毒殺した上、部下を惨殺した加賀殿は、鬼、魔物と呼ばわれ、信心深い将軍によって遠く四国の地に流されてきます。将軍家からの預かり者として、不浄の噂のある館に幽閉され、厳重に監視される加賀殿の噂は町中に流れ、次第に人の心の中の悪鬼を引き出してしまいます。

人殺しは不問にされ、加賀殿の幽閉されている屋敷に『肝試し』に入り込んだ頑是無い子供は切り捨てられる。幕府の不評を買うまいと戦々恐々とする武士たちと、鬼が来たために雷が落ち、神社が消失したと恐れおののく庶民。毎年の夏病みさえも悪鬼の仕業である疫病とされ、次第に恐れと苛立ちを募らせる人々と、それを利用し私欲に走る人間。

最近の宮部作品には無かった、人間性の恐ろしさと危うさを書いた作品です。登場人物ひとりひとりの心情が丁寧に描写され、久々に読み応えを感じました。魔物も悪鬼も、そして御仏もひとりの人間の中に存在するもの。ほうは、その純真さゆえに、他人の心の中の御仏を引き出す存在として描かれています。

宮部氏は、「キングのような作品を書きたい」と小説家を志したそうですが、ここに来て念願成就といった感じ。市井の人々の日常を書きつつ、鬼・加賀殿の人物像と、彼を巡る幕府と丸海藩の思惑を次第に明らかにし、それと平行して、登場人物ひとりひとりの中の鬼と仏をあぶりだしていく。雰囲気としては初期の江戸ものの短編に近いです…ま、最後はあまりにキングっぽくてかえって醒める部分もありますが。でも個人的には一番好きな書き方。ユーモアを中心にした作品も悪くないけれど、やはり宮部みゆきはこうでなくちゃ!最近は図書館で借りるだけだった彼女の作品ですが、これは文庫になったら即買いです。


孤宿の人 上 孤宿の人 上
宮部 みゆき (2005/06/21)
新人物往来社
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シシリーは消えた 

アントニイ・バークリー著 森英俊/訳 原書房

紳士階級として優雅な生活を送っていたスティーヴンだが、遂に財産が底を付き、労働者階級の仲間入りをすることに。
彼が一番心配していたのは、生活の糧を稼がねばならないことよりも、従僕として長年仕えてくれたブリッジャーのことでした。
しかし有能なブリッジャーは、主人に打ち明けられる前に事態を察し、既に主人が従僕として働くことになっているウェントリンガム・ホールの庭師の職を手に入れていたのです。

後顧の憂いなく無事ウェントリンガム・ホールの仕事に就いたスティーヴンでしたが、女主人のレディー・スーザンは噂どおりの難物、その上上役である執事のマーティンとは、初対面からそりが合わない。
それでもなんとか仕事を始めたものの、客として現れたのが、ずっと好意を抱いていたポーリーンだとは!そして彼女をエスコートしている俗物そのものの男がフィアンセと聞かされ、一気にどん底へと落ち込んでしまいます。

いくつもの謎が入り組み、巧妙な伏線が至る所に張り巡らされた本書は、バークリーの著作の中でも一級品と呼べるでしょう。降霊会の最中に消えたシシリー、隠し部屋に漂う香水の匂い、そしてポーリーンとのロマンスと、読みどころが満載です。

そして、何より嬉しかったのは読後感の良さ。買うかどうかずっと迷っていましたが、ホントに買って良かった~。

そうそう、スティーヴンとブリッジャーの関係は、かのウッドハウス描くところの「ジーヴス」を髣髴とさせますが、バークリー自身、デビュー当時はウッドハウスを目標としていたらしいです。でも、こちらのブリッジャーはジーヴスよりもずっと従順で控えめですが(笑)。

ともあれ、古きよき英国ミステリを好まれる方にはお勧めの1冊であります。

 


シシリーは消えた シシリーは消えた
アントニイ バークリー (2005/02)
原書房
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プリーストリー氏の問題 

A・B・コックス/著 小林晋/訳 晶文社

落ち着いた居心地の良い独身生活を送るプリーストリー氏。しかし友人に言わせれば
「君はキャベツだ!蕪だ!ペポカボチャのカタツムリ野郎だ!」
となってしまいます。その友人に対し、「結婚を控えているのだから精神が高揚しているのだろう」と怒りもしないプリーストリー氏は本当に紳士ですねえ。

いや、傍から見れば退屈至極でも、本人がこれで満足しているんだからほおっておけば良いものを…内輪のパーティーでのちょっとした話から、警察まで巻き込んだとんでもない悪ふざけにまで発展してしまいます。
悪ふざけの首謀者ネズビット氏曰く「分別の最大の長所は、時々それを失うことができるということ」ですからねえ…でも失いすぎだってば(笑)。

スラップスティックと言いたいくらいのコメディーですが、上品に抑えてあるのは流石1927年のイギリス小説。先が読めてしまう展開だけれど、それでも充分に面白い!

そうか、今気づきましたがウッドハウスと同時代なのですね。なんか納得。

著者は推理物では「アンソニー・バークリー」心理ミステリでは「フランシス・アイルズ」と筆名を使い分けていますが、この「A・B・コックス」が本名だそうです。そして本書は、この名で書かれた最後の長編でもあります。でもこれ以前に出版された作品は全て未訳なのですよね…是非邦訳出版して頂きたいものです。

プリーストリー氏の問題 プリーストリー氏の問題
A.B.コックス、小林 晋 他 (2004/12)

晶文社
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