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クライム・マシン 

ジャック・リッチー/著 好野理恵/訳 晶文社

久々に嬉しい短編集を読みました。

簡潔な文体、ウイットに飛んだ会話、ひねりの効いたストーリー展開、そして見事なラスト。50~60年代の短編を髣髴とさせる洒落た雰囲気…と思ったら、やはり書かれたのはこの時期でしたね。なのに短編集としてまとめられたのは本国でも1冊きり、日本ではなんとこの本が最初とは。これだけの作家が埋もれていたなんて勿体無いのなんの。読めば読むほどもっと読みたくなるような、中毒性のある作品ばかり。20世紀半ばの雰囲気を色濃く残しながらも、40年以上経った現在でも、全く古さを感じさせないことに今さらながら驚かされます。

表題作の『クライム・マシン』は「あなたの犯行は全てタイムマシンから見ていた」と告げられた殺し屋の物語。そして不治の病に罹った男の、残された時間の過ごし方『歳はいくつだ』の、妙に親近感を抱いてしまう描写や、異色中の異色探偵カーデュラの活躍を描いた連作『カーデュラ探偵社』他3編も非常に面白いのですが、特に衝撃だったのはやはり中年女性二人の、互いの話を聞かずに自分のことばかりを話しながらも会話が成立しちゃうという妙技(笑)から炙りだされる真実を描いた『旅は道連れ』であります。勿論他の短編も粒揃い。フレドリック・ブラウンやヘンリー・スレッサー等々がお好きだった方には是非是非読んで頂きたい短編集です。

そうそう、今年の『このミステリーがすごい』では堂々の第一位だったようです。これまでは相性のよい作品が少なかった『このミス』ですが、これで見直したわい(笑)。これで続刊が刊行されたらもっと嬉しいのになあ。

夜明けのフロスト 

R・D・ウィングフィールド・他/著 芹沢恵・他/訳 光文社文庫

クリスマス休暇になると毎年大事件が勃発しているんじゃないか?この街は。この時期のデントンには出来る限り近づきたくないものである。

短編なのでどうかな?と思ったけれど、内容は充実。100ページの中にクリスマスの早朝に捨てられた赤ん坊、行方不明のティーンエージャーに百貨店の盗難、殺人と盛りだくさん。
長編と違うのは、フロスト警部が比較的大人しいことか。人差し指が活躍しないし(笑)。だけど趣味の悪いジョークは楽しめますよ。あ、そうそう。アレン警部が出てこない。ま、彼はクリスマス休暇をしっかり取って、何処かでお上品に過ごしているんだろうけど(笑)。

収録作品は他に6編。
エドワード・D・ホック「クリスマスツリー殺人事件」
ナンシー・ピカード「Dr.カウチ大統領を救う」
ダグ・アリン「あの子は誰なの?」
レジナルド・ヒル「お宝の猿」
マラー&ブロンジーニ「わかちあう季節」
ピーター・ラヴゼイ「殺しのくちづけ」
でもまだ読んでいないし(笑)。こっちはゆっくり楽しみます。

ところで、創元の第四弾はいつになるんだろうか?

夜明けのフロスト 夜明けのフロスト
R・D・ウィングフィールド (2005/12/08)
光文社
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アイルランド幻想 

ピーター・トレメイン著 甲斐萬里江/訳 光文社文庫

アイルランドを舞台にした短編集です。かなり怖かった…。古代の神々の、歴史の中で積み重ねられてきた重みがじわじわと沁みこんで来ました。
最初の「石柱」では安定路線か?とも思いましたが、読めば読むほど、その歴史の深さと人々の嘆き、そして怨念が感じられます。イギリスによる征服、そして大飢餓の恐ろしさも繰り返し語られており、これがまた筆舌に尽しがたいほどに悲惨で恐ろしい。

ローマ帝国の時代から、独自の世界を作り上げてきたケルト文明。自然を畏怖し、様々な神々と共存してきた彼らの神様は冷たく残酷で…いや、神様だけじゃない、人間も然り。物語としてはあまりに救いがないのでは?とも思えますが、ホンの数百年、いや数十年前だって自然は理不尽なものであり、支配者も時には自然以上に残酷なものであり、それに対抗する術を持たない人間たちは、ただ黙って受け入れ耐え忍ぶしかなかったんですよね。

ケルト文明やアイルランドについては通り一遍の知識しか持っていませんが、非常に興味をそそられました。ちと検索してみたら、7世紀を舞台にした小説が刊行される予定とか。是非こちらも読みたい!

明日訪ねてくるがいい 

マーガレット・ミラー/著 青木久恵/訳 ハヤカワポケットミステリ(絶版)

駆け出し弁護士のトム・アラゴンは、デッカー夫人から依頼された前夫探しを担当することになる。前夫は数年前、メイドと駆け落ちしメキシコへ行ってしまったのだ。

結婚直後に卒中で倒れ、意思の疎通がやっとの状態とはいえ夫のいる身で、デッカー夫人は何故、自分を捨てた前夫を探そうとするのか?
それだけではない、デッカー夫人は夫の知力が衰えていないと考えていながらも、夫に前夫との思い出話をし続ける。それを止める術もなく、聞き続けなければならない現在の夫…

そしてメキシコで捜索するアラゴンの前に立ちはだかる、情報提供者の死。

デッカー夫人の前夫に対する執着が凄いです。最初の妻から無理やり奪い取り、逃げられても自分が再婚してもなお、彼との思い出を語り続ける姿。夫人はあれこれと口実を並べ立てますが、その根底に流れる前夫への思いの凄まじいこと。

そして最後の数行で明かされる真実には、戦慄を禁じえません。自分の目的以外何も見えなくなっている女の恐ろしさ、我が身の危うさに全く気づかない彼女の無防備さ。
いえ、目的を達しさえずれば、我が身がどうなろうとも頓着しないのかも。

ポケミスで刊行されましたが絶版、文庫落ちもしなかった本書ですが、ミラーの円熟期の作品でもあり、他の入手可能な本と比べても決して見劣りするものじゃない。いえ、かなりの傑作と言えるでしょう。

何故これが埋もれたままなのか?納得出来ませぬな。

黒い時計の旅 

スティーヴ・エリクソン/著 柴田元幸/訳 白水Uブックス

ナチスドイツが滅びなかった世界を描いた“イフ”もの…との先入観で読んだのだけど、最初から面食らいました。父親を知らないまま育った、真っ白な髪の青年の話から始まり、次は一転して、両親や兄弟たちと暮らしながらも、常に招かれざる訪問者でしかなかったバニシング・ジェーンライトの少年時代が語られる。このふたつの話の合間に挿入された語りの意味がわかるのは読了後になってから。

世界の中心の、その人物を語っていてすらも、政治や国際情勢は、ありきたりの市井の人々の目線で語られるのみ。この書き方がまず新鮮で強く惹きつけられます。あとはもう、ただひたすら読む、無心に読む。この世界観にどっぷりとはまり込む。こんなに集中したのは久しぶり。時間は錯綜し、精緻に編み上げられた物語に幻惑される…本読みとして至福の時間を過ごしました。

これだけの複雑な物語でありながら、混乱することなく一気に読めたのは、翻訳の力も大きいでしょう。次に読むエリクソンも絶対柴田氏翻訳の作品!

これは一読では満足出来ないので、所蔵本にすべくさっさとネット書店に注文しました(読んだのは図書館から借りたハードカバー)。これは何度読んでも飽きない。何度でも読み返したい本であります。

黒い時計の旅 黒い時計の旅
スティーヴ エリクソン (2005/08)
白水社
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