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すべての火は火 

フリオ・コルタサル/著 木村 栄一/訳 水声社


ごく普通の日常が非日常と繋がり重なり合う、道を歩いているうちにいつの間にか道路から半歩外れている…そんな雰囲気の8編の短編を収録。

「南部高速道路」
秋に始まり春にやっと解消される渋滞、その中で起きる人間模様と芽生える愛、そして諍い。登場人物の描写は薄いが、それが物語そのものの幻想的な雰囲気を盛り上げている。ラストの空虚さが心に残った。

「病人たちの健康」
重症の母への気遣いが、いつの間にか周囲の者を巻き込み新たな現実を作り始める…痛々しくも滑稽で哀しい。

「合流」
これを理解するほどに南米の歴史について知識がなかったのが残念。苦手な戦争ものということもあって表面的なところしか読めなかった。

「コーラ看護婦」
この作品集の中では一番普通っぽい?それでも夢の中で濃霧に阻まれ前に進めないときの感覚を思い起こさせる。

「正午の島」
読み手によって幾通りもの解釈が出来そうな作品。島への憧れを喚起したものは?島に滞在したのは?そして流れ着いた男は?そのままさっと読めば流してしまえるが、気になったら最後考え込まされる。

「ジョン・ハウエルへの指示」
客席と舞台の境、現実と虚構の境が消えうせる怖さ。底なし沼に落ち込むような感覚にさせる作品。

「すべての火は火」
ありがちな三角関係が過去の悲劇と融合する。センテンスの途中で唐突に場面が転換し、重要な出来事が行間でのみ語られ、最後の火に終結する。個人的には好みの物語ではないけれど、手法は凄い。

「もうひとつの空」
ガス燈に照らされた商店街での噂話と、そこに見え隠れする殺人者の影と南米人。異次元のその空間にいとも簡単に出入りする青年。これも複数の解釈が可能なのだろうが、そのまま雰囲気に浸るだけで充分かも。一番好みに合う物語だった。

10ドルだって大金だ 

ジャック・リッチー/著 藤村裕美/訳 河出書房新社

出ました「クライム・マシン」に続くジャックリッチー短編集第二弾。
切れがよく無駄のない、すっきりとした文体。シニカルでユーモラス、暗い物語であっても軽やかで楽しい読後感。読書に気軽な楽しみを求めるのならば、やっぱりこういう本が最高ですね。全部が全部傑作といえるわけではないけれど、それでも読んで損は無い。
あまりにも簡潔な文体ゆえ、ストーリーに触れるとネタバレの危険性大。なので、ここでは一部の簡単な感想だけに留めておきます。

「妻を殺さば」
これは映画にもなったらしい。でも、当時の倫理観に反するため、ストーリーはかなり改変されている模様…勿体無いですよそんな。倫理に反するからこそラストが生きる一篇。

「毒薬で遊ぼう」
導入部から引き込まれ笑わせられる。尋問する側とされる側の駆け引きが最高!最後まで無駄が無く、短編ではあるが読み応え充分、いや十二分。

「キッド・カーデュラ」
「クライムマシン」に連作短編として紹介されていたカーデュラ氏のシリーズ番外編。あちらのカーデュラ氏とはイメージが違うけれども、こっちのカーデュラも面白い!こういう一族ならば仲間入りしても良いかも?(笑)

「誰も教えてくれない」
今回の連作短編ターンバックルシリーズ。これを含め5編が掲載されています。主人公は駆け出しの探偵、しかし彼の探偵ぶりがまた…(笑)。と思いきやしっかり裏切ってくれる作品もあり。

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収録作品
妻を殺さば/毒薬で遊ぼう/10ドルだって大金だ/50セントの殺人/とっておきの場所/世界の片隅で/円周率は殺しの番号/誰が貴婦人を手に入れたか/キッド・カーデュラ/誰も教えてくれない/可能性の問題/ウィリンガーの苦境/殺人の環/第五の墓

10ドルだって大金だ 10ドルだって大金だ
ジャック・リッチー (2006/10/13)
河出書房新社
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大統領の最後の恋 

アンドレイ・クルコフ/著 前田和泉/訳 新潮クレストブックス

一人の男性の半生を三つの時系列-旧ソ時代末期(1975~92)ウクライナ独立後(2002~05)そして未来(2011~16)-に分けて交互に書き綴っている。
これは構成の妙だろう。青年期の主人公の姿を見て、この人が大統領に?と感じてしまうし、だからこそ何故彼がその地位に登りつめたのかが早く知りたくて、ついページを繰る手が早まる。大統領になってからの彼は一人身なのだが、そうするとこの女性は?あの女性は?子供は?…そしてまた夢中で読みふけることになるのだ。

これが時系列通りに書かれていたら、ここまで夢中になれたか?いえ、物語自体もとても面白いのでこの厚さでも飽きることはないでしょうが、読了までに少なくても倍の時間がかかったと思う。

主人公セルゲイは、ナイーブで優しい、優柔不断とも言えちゃうような、何処にでもいそうな男性。しかし周囲にはなかなか癖のある人間が集まる。
大統領就任後に心臓移植を受けるのだが、これがまた一癖もふた癖もある心臓だ。
緊迫する政治情勢の中、政敵が思いもよらぬ攻撃をかけてくるし、周辺諸国もとんでもない事件を起こすし、ロシアには頭が上がらないし、国内では宗教問題や政治家同士の足の引っ張り合いやら…と、シニカルでユーモラスで楽しいのだけど、ロシアウクライナ情勢に疎いため、一番面白い部分が理解出来ていない気がする…ちょっと(かなり)残念。

600ページを越える大作だし一気読みは難しいだろうが、ラストを充分に堪能するにはやはり間を空けずに読むほうが良いだろう。3日間かかりきりになったけどその甲斐はありました。おすすめ!


大統領の最後の恋 大統領の最後の恋
アンドレイ・クルコフ (2006/08/30)
新潮社
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グラックの卵 

ハーヴェイ・ジェイコブズ/他 浅倉久志/編・訳国書刊行会

1950年から68年までに発表されたユーモアSFを、年代順に並べたアンソロジー。

「見よ!かの巨鳥を!」ネルスン・ボンド
冥王星の軌道上で発見された物体。 まるで羽ばたいているように見えるが…
ありうべからざる大きさ、ありうべからざる速さ。 目標は?目的は?
ブラウンの「気違い星プラセット」を思い出した。共通項は「鳥」ってだけですが…いや、トンデモ話を真面目に書くところそのものも共通しているのかも。

「ギャラハー・プラス」ヘンリー・カットナー
マッド・天才・アル中サイエンティストの話。
学はなくても一旦酔っ払えば天才、でもシラフに戻ればただの人。しかも酔っている間の記憶は全てなくしてしまう。
物語も楽しかったけど、最高は何といってもロボットのジョー。何ともキュートで魅力的で手に負えない~。はい、ロボット&人工知能には無条件で惚れます♪

「スーパーマンは辛い」シオドア・コグスウェル
スーパーマンって言ってもタイツ穿いてるアレじゃなく、超能力者集団、って意味。自らの優位性を保ち、予測される通常人の迫害を避けるために力を合わせるスーパーマンたち。しかしその結果は…
文明礼賛っぽいところはありますが楽しかった。スーパーマンなのに、妙に小市民的なところがかわいい。
ラリイ・ニーヴン「スーパーマンの子孫存続に関する考察」もスーパーマンゆえの辛さを書いた小説だったな、こっちはタイツはいてる方だけど(笑)。再読候補のトップに上げておこう。

「モーニエル・マサウェイの発見」ウィリアム・テン
才能皆無、自意識過剰で自信過剰、周囲から避けられて当たり前の「自称」画家マサウェイが、突然才能豊かな良識人になった理由は?
タイムパラドックスものだが、普遍のテーマを新しい切り口で料理している。普通「最初に誰が?」っていうのはうやむやにされがちだけど、曖昧ではあっても回答があるっていうのは珍しい。

「ガムドロップ・キング」ウィル・スタントン
ほのぼの系の小品。レイモンドは農場で変わった「お友達」と出会い、しばらく話をするうちに心に引っかかっている悩み事を打ち明ける。
結末がはっきりしない分、この後を思い巡らす楽しみが残る。
ついイジワルな笑みが浮かんでしまうのは大人の邪悪さか(笑)。

「ただいま追跡中」ロン・グーラート
私立探偵ビルは、ロボ・クルーザーで家出した依頼人の娘を追跡中。けれどもクルーザーが不調続き。結局不時着する羽目になり、そこで機械心理学者/精神分析医のディーピング博士と知り合う。
面白いのだけどちょい読み足りなさが残る。アイディアに頼りすぎかな?

「マスタースンと社員たち」ジョン・スラデック
事務仕事という地味な職業を背景にした、非現実的で無機質な言葉遊びの世界。…ダメです、どうも合いません。

「バーボン湖」ジョン・ノヴォトニィ
これは好み♪どうせ休暇を過ごすなら、こういう場所に本をいっぱい抱えて行きたい!…洋酒だけかな?日本酒もあればいいなぁ(笑)。

「グラックの卵」
ヒーコフ教授の遺言で、絶滅種である筈の「グラック」の卵を託されたハロルド。しかしその卵を狙う人物が…。お色気風味の利いた楽しい一篇。

しかし、最初の「見よ!かの巨鳥を!」の卵の壮大さ(大風呂敷)に比べて、「グラックの卵」の卵ちゃんの可愛らしいこと。黄金時代以降変転を重ねてきたSFではあるが、こうやって発表年代順に読んでみると、傾向がはっきりしてくる。
やっぱり自分には50年代あたりが向いているらしい…。

 

グラックの卵 グラックの卵
ハーヴェイ ジェイコブズ (2006/09)
国書刊行会
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シャルビューク夫人の肖像 

ジェフリー・フォード/著 田中一江/訳 ランダムハウス

19世紀末。時代の波に乗って、肖像画家として名を成しているピアンボは、盲目の男から「主人の肖像画を書いて欲しい」との依頼を受ける。高額の申し出に惹かれて依頼主シャルビューク夫人の元を訪れたピアンボ。だがそこで告げられた条件は「姿を見ずに、会話だけで自分の肖像画を描け」という奇想天外なものだった。

衝立の影から、子供時代の特異な経験を語るシャルビューク夫人。
山中の一軒家、降り積もる雪、そのひとつひとつの結晶。
或いは、まるで涙のように目から血を流し、路地裏で死んでいく女性。
主題に相応しく、絵画的な雰囲気の中で流れゆく物語。

非常に印象深く、サスペンスに溢れた読み応えのある作品である。ピアンボの恋人サマンサの毅然とした美しさ、シャルビューク夫人の正体を暴くことに積極的な画家仲間、姿を見せずに脅しをかけるシャルビューク氏、盲目の執事と、登場人物も多彩で個性的。読み出したら止められない、面白い小説だった。
だが、読後にはどうしても物足りなさを感じる。すっきりとまとまった完成度の高さ、これはエンターティーメント小説として一流だとは思うのだけど、「白い果実」の荒削りだけれど力強い、怖ろしくも魅力的な世界とどうしても比較してしまう。
最後は好みの問題だし、「白い果実」は三部作の第一作に過ぎないため、これからどうなるかは未知数でもあるのだけれど…やっぱりこっちが好きですねぇ。でも安心して人に薦められるのは?と聞かれたら間違いなく「シャルビューク夫人」ですなー。


シャルビューク夫人の肖像 シャルビューク夫人の肖像
ジェフリー・フォード (2006/07/20)
ランダムハウス講談社
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