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家守綺譚 

梨木香歩/著 新潮社

 ボートで湖に出たきり帰らぬ人となった同級生の家族が引っ越すことになり、残った家の守として住み込むことになった、駆け出しの文筆家征四郎。しかしこの家が只者ではない。庭の百日紅に懸想される、床の間の掛け軸からは亡きこの家の息子高堂が尋ねてくる。池には河童、近所の川には川獺。拾った野良犬は有名な仲裁犬となり、遠くからもお呼びがかかる。物の怪に出会うたびに驚く征四郎に、隣家の細君や編集者の後輩は「常識ですよ」と諭すのだ。この飄々とした雰囲気が楽しい。人間も物の怪も死者も、この家ではあたりまえに共存している。物の怪たちもごく自然に生活に溶け込んでいるので、自己主張の強い悪戯などはしないのである。八百万の神々は彼らもを守っているのであろうなあ。他の登場人物たちも生き生きして、無理せず慌てず驚かず…長虫屋がいいですね、物の怪よりも謎(笑)。明治という舞台設定を生かした、浪漫溢れるファンタジーでありました。普段馴染みの薄い日本物の小説ですが、こういう世界ならばすんなりと楽しめるのです。

 

家守綺譚 家守綺譚
梨木 香歩 (2006/09)
新潮社
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その名にちなんで 

ジュンパ・ラヒリ/著 小川高義/訳 新潮社クレストブックス

カルカッタ在住のベンガル人アシマは、見合い結婚してすぐに夫アシュケと共にアメリカへ移住する。
異国で生まれた長男に、アシュケは生涯の転機となった事故で自分の命を救った本の作家にちなみ「ゴーゴリ」と名づけるが、ゴーゴリは成長と共に自分の名を恥じるようになり、その後大学入学を切っ掛けに改名に踏み切り「ニキル」と名乗る。生まれ変わった彼は戸惑いつつも新しい生活に飛び込んでいくが…

ベンガルの風習を守り続け、アメリカでもベンガル人社会の中のみで生きようとする両親と、生まれ育ったアメリカ社会に溶け込もうとする子供たち。しかし、アメリカ文化の中でのみ育ったアメリカ人と同じにはなりきれないゴーゴリの生き方が、名前と女性遍歴とで著される。
うまい!としか言いようのないエピソードの積み重ねが素晴らしい。もう絶賛である。読後には男物の靴を履いてみるアシマ、インドでアメリカンボップスのテープを奪い合う兄弟、ニューハンプシャーで自然に溶け込んだ生活をおくるラトクリフ一家の映像がしっかり頭に刻みつけられていた。この完璧な小宇宙を作り上げたのが、まだ30代の女性というのだから嬉しい驚きである。珠玉の短編集「停電の夜に」で酔わせてくれたかと思うと今度はこの長編…読書好きで良かった!

この先ネタバレ領域です、ご注意を。

 


あとがきで「ほとんど憎まれ役」と書かれていたモウシュミの存在が際立っていたと思う。同じような環境に育ち、同じようにそれらを拒否しながらも、最後は両親の生きかたを理解し引き継いでいこうとするゴーゴリと、それを自分から破壊してしまうモウシュミ。彼女はベンガル社会で生きていくことに耐えられず、しかし芯からアメリカに溶け込むことも出来ない…唯一両方から遠く離れたパリでの生活のみが本当の人生であったような彼女があまりにも痛ましい。これは両親の育て方の差と言えるのだろうが、本人が気づいていないのが一番の悲劇なのかも…。
そして静かで目立たないが、両親が少しづつ、そして着実にアメリカ社会に根を下ろしていく様子が心に残る。アシマの生き方は、一見女性としての宿命に流されているように見えながら、実は一番したたかなのかも知れない…勿論礼賛の意味で。

あれこれとだらだら書き連ねてしまいましたが、言いたいのはひとことだけ…最高です!


その名にちなんで その名にちなんで
ジュンパ・ラヒリ (2004/07/31)
新潮社
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