スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

運転席 

ミュリエル・スパーク/著 深町真理子/訳 早川書房

些細な一言でヒステリックに噛み付く、エキセントリックな30代半ばの独身女性リズ。彼女が休暇を過ごす為に買い求めた衣服はレモン・イエローの上半身、スカートはオレンジ、紫、ブルーに染め分けられており、上に羽織るのは赤白縞模様のサマーコート…鮮やかなんてものじゃない、派手という言葉ですら弱すぎる。しかも丈は10年も流行遅れという野暮ったさ。
勿論彼女はあちこちでトラブルを起こすのですが、そんなことは全く気にかけず、彼女はひたすら顔も姿も年齢すら分からぬ「彼」を探すのです。当たり前の女性なら探すのは一夜のアバンチュールの相手か、生涯の伴侶なのでしょうが、リズの言動を見ていると、そんなありきたりの相手とも思えません。彼女がこの後どうなるかは最初から明かされているのですが、何故そうなるのかは最後まで分からない。いえ、読みながら「何故?」などと疑問を持つ暇はありません。ただただ惹きつけられ、活字を追うだけで精一杯。
この小説のエピソードのひとつひとつは、ものの見事にラストにて結集します。クリスティー女史のお言葉を拝借すれば、全ては「ゼロ時間」ただ一点へ向かってまっしぐらに突き進むのです。そして、読後の重苦しさの中に、不思議な達成感すら感じます。この感覚はなかなか得られるものじゃありません。

しかし、この著者の作品は現在殆どが絶版であります。しかも、古書の世界では恐ろしい高値がついているのです。一作読めば、この作者がメジャーにならなかったのも、絶版久しい本だと言うのに今だ大枚はたいて求める人が絶えぬのも納得がいくのですが…何処かの古書店に私の買えるような値段で置いてはいないものでしょうか。薄っぺらな財布を眺めながら、ただ溜息をつくしかありません。この本をおすすめ下さったおはなさん、本当にありがとうございました。また貧乏街道を驀進することになっても後悔致しませぬ。

願い星、叶い星 

アルフレッド・ベスター/著 中村融/訳 河出書房

この本、だいぶ前に買ったのですが、ついつい寝かせてしまった…実は、他の皆様の好評に釣られて購入したものの、この著者の唯一の既読作「虎よ!虎よ!」がイマイチ好みじゃなかったのです。でもそれは全くの杞憂でした、面白かった~。
「願い星、叶い星」
これは既読でした、しかも収録されたアンソロジーの中でもお気に入りだった短編。これがベスターだったとはっ。冒頭の「作文」から、失踪に纏わる謎、そしてラスト。一気に読ませて、いつまでも忘れられない一編です。
「ごきげん目盛り」
冒頭から血なまぐさくちょっと引いてしまいましたが、これも読み応えのある短編。「わたし」が彼であるのかアレであるのか、この描き方は余人の追及を許しますまい。
「昔を今になすよしもがな」
うーん、日本人の心をくすぐるこのタイトル。これは翻訳者のお手柄ですな。つい「しずやしず~~」と詠いたくなってしまいますが。書き尽くされた感のあるこのテーマ、でも切り口の斬新さが心捉えます。
他の短編も、古いSF好きの心を掴む秀作。今読んでも古びません。「イヴのいないアダム」は、この小説の後に同様の話がかなり書かれてしまったのでショック度が薄れてしまったでしょうが…。
ともあれ、ベスターの長編は好みに合わなくても、短編はとっても好みです。
しかしこの“河出書房 奇想コレクション”って、いい作品ばかりが揃っているような…文庫化は望めないだろうし、思い切って全巻揃えるしかないかなあ。そうそう、スタージョンの「輝く断片」もこのシリーズに入るのですよね…待ち遠しいったら。

収録作品
ごきげん目盛り/ジェットコースター/願い星、叶い星/イヴのいないアダム/選り好みなし/昔を今になすよしもがな/時と三番街と/地獄は永遠に

願い星、叶い星 願い星、叶い星
アルフレッド・ベスター (2004/10/22)
河出書房新社
この商品の詳細を見る

継母礼賛 

マリオ・バルガス・リョサ/著 西村英一郎/訳 福武書店

冒頭は、40の誕生日を迎えた継母に心憎いプレゼントを贈る少年という、ほのぼのとした雰囲気である。再婚するにあたってルクレシアは、なさぬ仲の息子の存在を一番心配していたのだが、少年はこの美しい継母を心底崇拝しているようだ。でも、母に甘える息子の“おやすみなさいの接吻”がちょっとヘン…?

麗しの継母ルクレシアと天使のような少年アルフォンソ、そして自らの身体を変質的な喜びを持って磨き上げる夫リゴベルト。この3人の姿を、「リディア王カンダウレス」「水浴の後のディアナ」等の絵画と寓話にて描き出していくリョサの筆致は、官能に溢れながらも冷徹であり、ラストではそれまで浮かべていた笑みが一瞬にして凍りついてしまう。そして、女神を賛美する文章でも、他言を憚るほどに詳細を極めた肉体の描写でも、遥かな異世界に引き込まれたかのような言葉の巧さが本書でも光ります。
帯を見ると結構キツそう、中身を見るともっとショッキングという買うには躊躇してしまう本ですが、見つけて良かった買って良かった。一年の締めくくりの1冊としては大満足、強烈に心に焼きつく本でありました。
そうそう、この本には続編があるのですよね。「継母」は絶版だけれど、こちらは入手可能。実は既にネット書店のカートに鎮座しております♪

追記

続編「官能の夢」は中年男性の白昼夢でありました…

無理して読まなくても、といった内容。


古書修復の愉しみ 

アニー・トレメル・ウィルコックス/著 市川恵里/訳 白水社

大学院に在籍しながら印刷業に携わっていた著者は、大学の製本講座で修復家のアンソニー氏と出会い、彼に弟子入りすることになる。
この修復作業が実に細かい。数百年前のばらばらになりかけた本を一旦ばらし、ページに洗いをかけ、破れをつくろって、外見を元のように美しく再現するだけではなく、また読むことができるように作り直すのだ。正に気の遠くなるような作業の連続。そして一流の技術者達の、自分の得た技術を後世に残す為の努力にも感服である。

「弟子入り」ってなんか懐かしい日本語だが、著者は日本の職人に造詣が深く、師弟制度についても詳しい。英語の「クラフツマン」「アルティザン」では伝えきれない“職人気質”を理解し共感してくれているのは嬉しい限りである。仕事に使う道具も日本のものが頻繁に出てきて、やはり昔からこの国は技術立国だったんだ…としみじみ思った。今でも日本の技術を支えているのは、町工場の職人さんの、経験に裏打ちされた高度で精密な技術だものなあ。

この本には派手な面白さはないが、修復技術やその歴史、図書館の奇観本保存の現状など、本好きの一人として非常に読み応えを感じた。仕事としても、やりがいのある面白い職業だろう。自分の不器用さと飽きっぽさを自覚している身としては見果てぬ夢でしかないけれど。

本書を読了してすぐに、書棚の蔵書をチェックした。大部分が花ぎれ(背の中に貼り付ける、芯の入った布)がなかったり、あっても紙製だったりと、やはりいまどきの大量生産品だったが、一冊だけ飛びぬけてしっかりした作りの本があった。山尾悠子著「ラピスラズリ」である。この本は値段が高かったので一度図書館で借りたのだが、後に内容と装丁の美しさに所有欲が抑えられず購入したもの。値段に負けずに買って良かった~。

古書修復の愉しみ 古書修復の愉しみ
アニー・トレメル ウィルコックス (2004/09)
白水社
この商品の詳細を見る

シャドウ・パペッツ 

オースン・スコット・カード/著 田中一江/訳 ハヤカワSF文庫

「エンダーズ・シャドウ」「シャドウ・オブ・ヘゲモン」に続く、ビーンシリーズ第三弾。今回はヘゲモン・ピーターがアシルを利用しようと画策する場面から始まります。おうおう、いくらピーターと言えどもアシルの敵ではないような…。
この巻では、ピーター、ヴァレンタイン、エンダーの3人の子の両親であるジョン・ポールとテレサ夫妻の才能が遺憾なく発揮されています。お陰でピーターの可愛らしさが目立つこと(笑)。あらすじを紹介すると、今回の戦争がどういう経緯を辿ったかまでばれてしまうので控えますが、近未来の世界情勢は複雑だけれど頷けるかも(の、ような気がするだけですが…現在の状態にも詳しいとは言えないので)。
目先の問題には一応の決着を見る本書ですが、それでもビーンの根本的問題は解決せず。本国で来年刊行予定のShadow of the Giantの邦訳を待つしかないですね。しかしこの「パペッツ」も、刊行から邦訳が出るまで2年かかっているのですよ。とすると、続きが読めるのは2007年。うわ~遠すぎる。今回もこの本を読んだ後に「パペッツ」を読み返す必要があったし、それでも足りないので今から「エンダーズ・シャドウ」に入る予定。次回は全部終わるのに一週間かかるだろうな。そっか、予定が近づいたら先に復習しておけばいいかも。一巻ごとに複雑な筋立てなので何年も頭に留めて置けないのです…わはは(汗)。

シャドウ・パペッツ シャドウ・パペッツ
オースン・スコット カード (2004/10)
早川書房
この商品の詳細を見る

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。