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輝くもの天より堕ち 

ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア/著 浅倉久志/訳 ハヤカワ文庫

銀河系のはるか周辺部、星ぼしの果てるところにある惑星ダミエム。空に輝くのは「殺された星」のノヴァの光、住んでいるのは妖精のように美しく儚い人々…

 

人類の欲望のための犠牲にされていたこの星の住人を保護するために任命された連邦行政官であるキップら3名と、最後のノヴァの輝きを見に訪れた観光客の一行という限られた人数の中で起きる事件。 閉鎖的な環境といえばこれ以上のものはないでしょう。そこで犯される犯罪と犯人探し、封印された過去から蘇る忌まわしい記憶と、主人公たちが陥る絶体絶命の危機。なんて盛りだくさんで贅沢なエンタティーメントであることか。

 

人間の内面を深く掘り下げていくようなSF、頭を絞りに絞って自分なりの解答を求めねばならないSFも嫌いではないですが、195060年代の米国SFに馴染んだ自分としては「これぞSF」なのです。「殺された星」にまつわる物語や、そこに住んでいた種族の最後の一人が言う台詞なんてもう「これぞSF」なのです。

 

…ミステリ部分については、犯人像が他の登場人物に比べると薄っぺらで類型的と感じちゃうのですが。

 

それでも人類の崇高さと残酷さ、償いきれない罪、そして明日への希望を(多少の苦さが混じるところがまた…)古典的手法を用いながらも余すことなく描き上げています。

 

やっぱりティプトリー・ジュニアはすごい。

輝くもの天より墜ち (ハヤカワ文庫 SF テ 3-6) 輝くもの天より墜ち (ハヤカワ文庫 SF テ 3-6)
ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア (2007/07)
早川書房
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マリナー氏の冒険譚 

P・G・ウッドハウス/著 小山太一/訳 文藝春秋社

 

ある居酒屋で、常連のマリナー氏が他の客に語る物語の数々。

読み始めてすぐ、ふと思う…

これってクラークの「白鹿亭奇譚」?

いや。考えてみればこっちのほうがずっと先だ。

もちろんアシモフの「ユニオンクラブ奇譚」よりも。

そうか、彼らのあの作品が読めたのも、ウッドハウスが先鞭をつけてくれたからなのか。

 

マリナー氏の名誉のために言っておくが、マリナー氏はハリー・パーヴィスやグリズウォルド氏よりも紳士的ではある…比較的。

物語はウッドハウスお得意の恋愛劇が多い。叔母さんはあまり出てこないけど、その分かのロバータ・ウィッカムを始め若い女性が活躍するし、男性陣は相変わらず高齢の紳士でも妙に可愛い(笑)。

 

ちょっと気になったのが、本書はマリナー氏ものだけで構成されているのではないこと。いや、作品そのものがどうこうと言うわけではなく、他にもシリーズ作品があるのだから、そっちを優先して欲しかったと思うのだ。そしてエッセイや他の作品は別にまとめて一冊に…と願うのは贅沢だろうか?それでも読みたいファン心理。ついでに言えば、本文中も「ミスター・マリナー」ではなく「マリナー氏」で統一して欲しかったな。すぐ慣れて気にならなくはなったのだけど。

まあ、それを差し引いたって今回も満足、満足でありました。

 

ウッドハウスの作品は、今後も文春や国書で刊行が予定されているけど、出来ればこの際全作品を翻訳してほしいものである。

 

収録作品

ジョージの真相/にゅるにょろ/お母様はお喜び/アンブローズの回り道/人生の一断面/マリナー印バックーU-アッポ/主教の一手/仮装パーティーの夜/アーチボイルド式求愛法/マリナー一族の掟/アーチボイルドと無産階級/オレンジ一個分のジュース/スタア誕生/ジョージとアルフレッド/ストリキニーネ・イン・ザ・スープ/もつれあった心/フランシス・ベイコンと手直し屋/ピンクの水着を着た娘

 

マリナー氏の冒険譚 (P・G・ウッドハウス選集 3) マリナー氏の冒険譚 (P・G・ウッドハウス選集 3)
P.G.ウッドハウス (2007/07)
文藝春秋
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マシアス・ギリの失脚 

池澤夏樹/著 新潮文庫 

(以下、ネタバレ注意)

舞台は主に3つの島からなる南洋の国ナビダード。珊瑚礁に囲まれた豊かな海に肥沃な大地、人口はたった7万人。充分に自給自足できる環境である。
それでも移り変わる世界情勢は、この国の孤立を許さない。大航海時代のスペインから始まり、現代ではアメリカと日本のどちらの庇護を受けるべきか、この国の3人の歴代大統領は悩み選択し、国際的な立場を維持しようと努力を続ける。

この作品は、2代目大統領であり一度選挙で敗北したもののまた返り咲き、事実上の独裁者となったマシアス・ギリの物語。青年期に日本で教育を受け、帰国後は消費文化の波に乗り成功を収めた実業家でもある。彼の人生そのものも面白くて充分に読み応えがあるのだが、この本の魅力は何といってもナビダード国そのものと無名の国民たちだろう。

最初に紹介されるこの国独特の生死感、市場で交わされる噂話、「消えたバス」に対する態度などから浮かび上がる、精神的に成熟しきった人々の姿。表で彼らを支える長老議会もさることながら、この国の根本はやはり八年に一度行われるユーカマイカの神事だろう。数万の人々が大巫女と同化し、他人と我が身を比べることは無意味となり、人と動植物との境界は消え、個々の存在は神の意識の中で一体となる。

食に困ることもなく、精神的にもこれ以上望めないほど豊かな人々にとって、政治や諸外国の動向や金銭的な成功に何の意味があるのか?

それを考える時、この作品の「幻想」は、神話や説明のつかないバスの失踪事件や飛び交う蝶ではなく、マシアスを初めとする政治家たち外国人たちのほうなのではないか…そう感じるのだ。

けれども最後の数ページは、それらの想いを打ち破ってしまう。余韻に浸る間もなく現実の世界を突きつけてくるのだ。このラストがなければ…せめて読まずに済ませることが出来れば…。少々残念。

マシアス・ギリの失脚 マシアス・ギリの失脚
池澤 夏樹 (1996/05)
新潮社
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ミスター・ヴァーティゴ 

ポール・オースター/著 柴田元幸/訳 新潮文庫

恥ずかしながらの初オースター。読後に調べたところによると、彼の作品としては群を抜いて読み易いらしい…良かった(笑)。

孤児で性悪、無教養な少年ウォルターは、謎の紳士に「空の飛び方を教えてやる」と言われ、一緒に暮らすようになった。数年に及ぶ虐待まがいの訓練を経て、やっと「ウォルト・ザ・ワンダーボーイ」として名声を手にしたのだが…。

ファンタジーというにはあまりにもリアル。20世紀初頭の、華やかでありながら暗く絶望的な、偏見と拝金主義の世情を余すところ無く描いている。けれどもどこか希望と明るさを感じさせるのは、やはりウォルターや師匠を初めとする登場人物の純粋さ(良い意味だけではないけれど)が切々と伝わってくるからだろう。何度地に落ちても起き上がり、人生を切り開いていくウォルター。飛翔の次には墜落が待っているとしても、墜落するごとにまた新しい人生が開けるのかも知れない。人生ってそう悪いものじゃないな。そう思わせてくれる作品だった。

ミスター・ヴァーティゴ (新潮文庫) ミスター・ヴァーティゴ (新潮文庫)
ポール オースター (2006/12)
新潮社
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最後のウィネベーゴ 

コニー・ウィリス/著 大森望/訳 河出書房新社

やっと出ました、待ちに待ったコニー・ウィリスの新刊。

「女王様でも」
しょっぱなからコレですか(笑)。殆ど女性だけの会話で成り立った、女性には無関心でいられないテーマを扱った作品。しかし極々当たり前、無いと焦るこの永遠のテーマを正面から取り上げた作品って今まで無かったんですよねぇ。何が問題なのかよく判らない書き出しから、思わず脱力の笑みを浮かべてしまうラストまで、短いながらも充分に楽しめる作品でした。

「タイムアウト」
これも面白い。こういうのを書かせたら天下一品ですねえ。「中年の危機」をSF仕立てにしようってのがまずすごい。そこに子供の送迎・帰宅の遅い夫・浮気・駆け落ちを混ぜ込んで最後に水疱瘡をひとたらし…それでも充分SFです(笑)。

「スパイス・ポグロム」
上記2編と同じくコメディー仕立てですが、これはスラップスティック。しかもサイレント映画を彷彿とさせるようなドタバタあり恋愛ありのハイテンション。会話は成り立っているものの、自分の発した意味と相手の受け取る意味が全く違っていたら?自分の部屋をシェアするだけじゃなく、廊下にも階段の一段ごとにも住んでいる人々がいて、その人たちとバスルームが共用だったら?そしてこれもきっちりSFです~。

「最後のウィネべーゴ」
この本の中で唯一シリアスな中篇。滅び行くものへの哀悼が抑えた筆致で淡々とつづられており、ペットに特に入れ込むことの無い私にも深い余韻を与えてくれました。そして作中の小物の扱い方が巧い。最初は意味不明でも、全体像が見えてくるに従ってその重さがずっしりと伝わってきます。

最後のウィネベーゴ 最後のウィネベーゴ
コニー・ウィリス (2006/12/08)
河出書房新社
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