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エムズワース卿の受難録 

P・G・ウッドハウス/著 岩永正勝・小山太一/訳 文藝春秋

やっと出ました文春ウッドハウス選集第二弾。
今回は、美しい庭と豚とをこよなく愛する伯爵、エムズワース卿のお話です。

伯爵は「一時にひとつのことしか考えられない男」。なので、心配事があるときに誰かが生きるか死ぬかの相談を持ちかけたって上の空、彼の心は南瓜若しくは豚のもの。なのに彼の周りには、常に厄介な問題事が頻出するからたまったものじゃありません…周囲も伯爵ご本人も。

この本に収録された作品のうち、エムズワース卿の人となりが全面に押し出された「豚、よォほほほーいー!」「伯爵とガールフレンド」と「ブランディングズ城を襲う無法の嵐」の3作品は、特に気にいりました。

「豚、よォほほほーい」は、とーっても浪漫ちっくな作品なのでありますが、ロマンスも伯爵にかかっては豚の二の次三の次。この伯爵の習性が運命を決めちゃう、それで良いのか。
「伯爵とガールフレンド」は、伯爵の人となりがしっかりと描かれ、笑っているうちにほろりとさせられる。伯爵、素敵です。
そして「ブランディングズ城を襲う無法の嵐」では…ここでいろいろ暴露したいのは山々ではありますが、もし私が未読のうちにストーリーを聞かされたら、その人に殺意を抱いたと思われるので割愛致します。スラップスティック度が一番高いとだけ申し上げておきましょう。これは予備知識なしに読むしかないです、ホント。

と、べた褒めで終らせたいところなのですが。
実は伯爵の次男坊フレディーが中心となる作品については、どうも合いませんでした。面白さはわかるのですが、最後まで感情移入出来なかったのです。登場人物が多いのも原因かな?フレディーや彼にまつわる人々の、一人ひとりの個性が飲み込めないまま終ってしまった感じ。
勿論、こちらのほうを面白く思われる人も数多くいらっしゃるでしょう。あくまで好みの問題です、はい。

そうそう、忘れちゃいけないN・T・P・マーフィー氏による序文、これは読み飛ばしてはいけません。この序文を読むと、本編が更に面白く興味深くなります。そして巻末のA・B・コックスの手によるウッドハウス風の文体で綴られたホームズのパロディーは必見!もう本編に負けず劣らず面白いっ。オチも最高です。

ついでに…

下の書映にはありませんが、この本帯がまた良いのです。本の2/3という大きさ、ピンクの豚のイラスト、そしてそこに書かれた宣伝文句には、否応無しに惹き付けられてしまいます。

豚ちゃんや。
わしはおまえと
カボチャと美しき庭が
安泰ならいいのじゃ。
なのに起きるのは騒動ばかり、
どうしたらいいかのう。

そして、カバーをめくるとそこには…

文藝春秋と国書のウッドハウス戦争。内容は甲乙付け難いですが、装丁は文春に軍配を上げたい。あ、冊数と価格は国書です念のため(笑)。

収録作品
序文(N・T・P・マーフィー)/南瓜が人質/伯爵と父親の責務/豚、よォほほほーいー!/ガートルードのお相手/あくなき挑戦者/伯爵とガールフレンド/ブランディングズ城を襲う無法の嵐/セールスマンの誕生/伯爵救出作戦/フレディーの航海日記/天翔けるフレッド叔父さん/文体の問題、あるいはホームズとモダンガール(A・B・コックス)



エムズワース卿の受難録―P.G.ウッドハウス選集〈2〉 エムズワース卿の受難録―P.G.ウッドハウス選集〈2〉
P.G. ウッドハウス (2005/12)
文藝春秋
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クライム・マシン 

ジャック・リッチー/著 好野理恵/訳 晶文社

久々に嬉しい短編集を読みました。

簡潔な文体、ウイットに飛んだ会話、ひねりの効いたストーリー展開、そして見事なラスト。50~60年代の短編を髣髴とさせる洒落た雰囲気…と思ったら、やはり書かれたのはこの時期でしたね。なのに短編集としてまとめられたのは本国でも1冊きり、日本ではなんとこの本が最初とは。これだけの作家が埋もれていたなんて勿体無いのなんの。読めば読むほどもっと読みたくなるような、中毒性のある作品ばかり。20世紀半ばの雰囲気を色濃く残しながらも、40年以上経った現在でも、全く古さを感じさせないことに今さらながら驚かされます。

表題作の『クライム・マシン』は「あなたの犯行は全てタイムマシンから見ていた」と告げられた殺し屋の物語。そして不治の病に罹った男の、残された時間の過ごし方『歳はいくつだ』の、妙に親近感を抱いてしまう描写や、異色中の異色探偵カーデュラの活躍を描いた連作『カーデュラ探偵社』他3編も非常に面白いのですが、特に衝撃だったのはやはり中年女性二人の、互いの話を聞かずに自分のことばかりを話しながらも会話が成立しちゃうという妙技(笑)から炙りだされる真実を描いた『旅は道連れ』であります。勿論他の短編も粒揃い。フレドリック・ブラウンやヘンリー・スレッサー等々がお好きだった方には是非是非読んで頂きたい短編集です。

そうそう、今年の『このミステリーがすごい』では堂々の第一位だったようです。これまでは相性のよい作品が少なかった『このミス』ですが、これで見直したわい(笑)。これで続刊が刊行されたらもっと嬉しいのになあ。

夜明けのフロスト 

R・D・ウィングフィールド・他/著 芹沢恵・他/訳 光文社文庫

クリスマス休暇になると毎年大事件が勃発しているんじゃないか?この街は。この時期のデントンには出来る限り近づきたくないものである。

短編なのでどうかな?と思ったけれど、内容は充実。100ページの中にクリスマスの早朝に捨てられた赤ん坊、行方不明のティーンエージャーに百貨店の盗難、殺人と盛りだくさん。
長編と違うのは、フロスト警部が比較的大人しいことか。人差し指が活躍しないし(笑)。だけど趣味の悪いジョークは楽しめますよ。あ、そうそう。アレン警部が出てこない。ま、彼はクリスマス休暇をしっかり取って、何処かでお上品に過ごしているんだろうけど(笑)。

収録作品は他に6編。
エドワード・D・ホック「クリスマスツリー殺人事件」
ナンシー・ピカード「Dr.カウチ大統領を救う」
ダグ・アリン「あの子は誰なの?」
レジナルド・ヒル「お宝の猿」
マラー&ブロンジーニ「わかちあう季節」
ピーター・ラヴゼイ「殺しのくちづけ」
でもまだ読んでいないし(笑)。こっちはゆっくり楽しみます。

ところで、創元の第四弾はいつになるんだろうか?

夜明けのフロスト 夜明けのフロスト
R・D・ウィングフィールド (2005/12/08)
光文社
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アイルランド幻想 

ピーター・トレメイン著 甲斐萬里江/訳 光文社文庫

アイルランドを舞台にした短編集です。かなり怖かった…。古代の神々の、歴史の中で積み重ねられてきた重みがじわじわと沁みこんで来ました。
最初の「石柱」では安定路線か?とも思いましたが、読めば読むほど、その歴史の深さと人々の嘆き、そして怨念が感じられます。イギリスによる征服、そして大飢餓の恐ろしさも繰り返し語られており、これがまた筆舌に尽しがたいほどに悲惨で恐ろしい。

ローマ帝国の時代から、独自の世界を作り上げてきたケルト文明。自然を畏怖し、様々な神々と共存してきた彼らの神様は冷たく残酷で…いや、神様だけじゃない、人間も然り。物語としてはあまりに救いがないのでは?とも思えますが、ホンの数百年、いや数十年前だって自然は理不尽なものであり、支配者も時には自然以上に残酷なものであり、それに対抗する術を持たない人間たちは、ただ黙って受け入れ耐え忍ぶしかなかったんですよね。

ケルト文明やアイルランドについては通り一遍の知識しか持っていませんが、非常に興味をそそられました。ちと検索してみたら、7世紀を舞台にした小説が刊行される予定とか。是非こちらも読みたい!

明日訪ねてくるがいい 

マーガレット・ミラー/著 青木久恵/訳 ハヤカワポケットミステリ(絶版)

駆け出し弁護士のトム・アラゴンは、デッカー夫人から依頼された前夫探しを担当することになる。前夫は数年前、メイドと駆け落ちしメキシコへ行ってしまったのだ。

結婚直後に卒中で倒れ、意思の疎通がやっとの状態とはいえ夫のいる身で、デッカー夫人は何故、自分を捨てた前夫を探そうとするのか?
それだけではない、デッカー夫人は夫の知力が衰えていないと考えていながらも、夫に前夫との思い出話をし続ける。それを止める術もなく、聞き続けなければならない現在の夫…

そしてメキシコで捜索するアラゴンの前に立ちはだかる、情報提供者の死。

デッカー夫人の前夫に対する執着が凄いです。最初の妻から無理やり奪い取り、逃げられても自分が再婚してもなお、彼との思い出を語り続ける姿。夫人はあれこれと口実を並べ立てますが、その根底に流れる前夫への思いの凄まじいこと。

そして最後の数行で明かされる真実には、戦慄を禁じえません。自分の目的以外何も見えなくなっている女の恐ろしさ、我が身の危うさに全く気づかない彼女の無防備さ。
いえ、目的を達しさえずれば、我が身がどうなろうとも頓着しないのかも。

ポケミスで刊行されましたが絶版、文庫落ちもしなかった本書ですが、ミラーの円熟期の作品でもあり、他の入手可能な本と比べても決して見劣りするものじゃない。いえ、かなりの傑作と言えるでしょう。

何故これが埋もれたままなのか?納得出来ませぬな。

黒い時計の旅 

スティーヴ・エリクソン/著 柴田元幸/訳 白水Uブックス

ナチスドイツが滅びなかった世界を描いた“イフ”もの…との先入観で読んだのだけど、最初から面食らいました。父親を知らないまま育った、真っ白な髪の青年の話から始まり、次は一転して、両親や兄弟たちと暮らしながらも、常に招かれざる訪問者でしかなかったバニシング・ジェーンライトの少年時代が語られる。このふたつの話の合間に挿入された語りの意味がわかるのは読了後になってから。

世界の中心の、その人物を語っていてすらも、政治や国際情勢は、ありきたりの市井の人々の目線で語られるのみ。この書き方がまず新鮮で強く惹きつけられます。あとはもう、ただひたすら読む、無心に読む。この世界観にどっぷりとはまり込む。こんなに集中したのは久しぶり。時間は錯綜し、精緻に編み上げられた物語に幻惑される…本読みとして至福の時間を過ごしました。

これだけの複雑な物語でありながら、混乱することなく一気に読めたのは、翻訳の力も大きいでしょう。次に読むエリクソンも絶対柴田氏翻訳の作品!

これは一読では満足出来ないので、所蔵本にすべくさっさとネット書店に注文しました(読んだのは図書館から借りたハードカバー)。これは何度読んでも飽きない。何度でも読み返したい本であります。

黒い時計の旅 黒い時計の旅
スティーヴ エリクソン (2005/08)
白水社
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冬の犬 

アリステア・マクラウド/著 中野恵津子/訳 新潮クレストブックス

本書には、本国で刊行された短編集「Island」の16編中、後半の8編が収録されています。
前半の8編が収録された「灰色の輝ける贈り物」では、美しく過酷なカナダの自然とそこに生きる人々を描いており、純粋にしみじみと感動したのですが、こちらはもう少し重く、更に深みが増し輝きが増してているように感じました。「灰色の~」が素晴らしかったので自分では最高の5つ星をつけたのに、それ以上に素晴らしいとなればこれは例外として星6つをつけるしかない。
「灰色の~」とこの「冬の犬」では、作品の雰囲気がかなり違ってきているので、これを別タイトルにして分冊したのは読む側にとっても嬉しいです。流石はクレストブックス♪

出来れば未読の方には予備知識なしに踏み込んで頂きたい世界なので、個々の短編について細かい感想は控えますが、カナダの大自然と共に生きる人々の、自然と密着した生活とその中で起きる人間模様が繊細な筆致で描写されています。生きること、生き抜くこと、自分の生き方を守ること、そしてそんな人々に容赦なく襲い掛かる時代の波…。

生きるとは何か?ではなく、自然と生命の不可思議さをごく自然に受け入れ、共存し、時に残酷で時に過酷な人生を如何に生きるか。静かな力強さと、生命そのものの輝きに満ちた作品でした。


冬の犬 冬の犬
アリステア・マクラウド (2004/01/30)
新潮社
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パディー・クラーク ハハハ 

ロディ・ドイル/著 実川元子/訳 キネマ旬報社

1960年代アメリカ。10歳のパディは悪戯ざかり。いつも友達や弟と、あれこれとんでもないことをやらかして日を送っている。ピンポンダッシュなんて序の口。空き地で密教ごっこ(これが痛そう)、口の中にガソリンを入れて火をつけたり、家から離れた場所にある商店街で万引きしたり、弟をトランクに閉じ込めたら開かなくなったり…かと思うと「女性はおならができるかできないか」を大真面目で議論し、サンタさんを信じているフリをし、一所懸命にスペルを覚え、一対一の真剣な喧嘩も。

そんな日常の中に、両親が次第に不仲になっていく様子が織り込まれます。日常的な口げんかから暴力へ。冷たい空気の流れる家の中で、パディは心を痛め、家出まで考えます。
子供の持つ純粋さと残酷さ、素直さととっぴさがリアルに描かれ、面白おかしく読み進むうちに、最後の一行で涙、涙。

思わず彼らのその後までをも本気で心配してしまうほどの描写力は、流石93年のブッカー賞受賞作。彼らの悪戯はかなり過激ですが、眉を顰めない自信のある方にはお勧めです…いえ、ホントに凄いのですよ彼ら(笑)。

パディ・クラーク ハハハ / ロディ・ドイル、実川 元子 他

孤宿の人 

宮部みゆき/著 新人物往来社

江戸の生まれながら、四国の讃岐国丸海藩に連れてこられ、たった10歳でひとりその異郷に放り出されたほう。厄介者として生まれたため躾けも受けられず、智恵も回らない彼女を、丸海藩の人々は暖かく迎え入れる。
が、この地に江戸から乱心した元・勘定奉行加賀殿が流され、ほうの運命はさらに変転することになる…

妻子を毒殺した上、部下を惨殺した加賀殿は、鬼、魔物と呼ばわれ、信心深い将軍によって遠く四国の地に流されてきます。将軍家からの預かり者として、不浄の噂のある館に幽閉され、厳重に監視される加賀殿の噂は町中に流れ、次第に人の心の中の悪鬼を引き出してしまいます。

人殺しは不問にされ、加賀殿の幽閉されている屋敷に『肝試し』に入り込んだ頑是無い子供は切り捨てられる。幕府の不評を買うまいと戦々恐々とする武士たちと、鬼が来たために雷が落ち、神社が消失したと恐れおののく庶民。毎年の夏病みさえも悪鬼の仕業である疫病とされ、次第に恐れと苛立ちを募らせる人々と、それを利用し私欲に走る人間。

最近の宮部作品には無かった、人間性の恐ろしさと危うさを書いた作品です。登場人物ひとりひとりの心情が丁寧に描写され、久々に読み応えを感じました。魔物も悪鬼も、そして御仏もひとりの人間の中に存在するもの。ほうは、その純真さゆえに、他人の心の中の御仏を引き出す存在として描かれています。

宮部氏は、「キングのような作品を書きたい」と小説家を志したそうですが、ここに来て念願成就といった感じ。市井の人々の日常を書きつつ、鬼・加賀殿の人物像と、彼を巡る幕府と丸海藩の思惑を次第に明らかにし、それと平行して、登場人物ひとりひとりの中の鬼と仏をあぶりだしていく。雰囲気としては初期の江戸ものの短編に近いです…ま、最後はあまりにキングっぽくてかえって醒める部分もありますが。でも個人的には一番好きな書き方。ユーモアを中心にした作品も悪くないけれど、やはり宮部みゆきはこうでなくちゃ!最近は図書館で借りるだけだった彼女の作品ですが、これは文庫になったら即買いです。


孤宿の人 上 孤宿の人 上
宮部 みゆき (2005/06/21)
新人物往来社
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シシリーは消えた 

アントニイ・バークリー著 森英俊/訳 原書房

紳士階級として優雅な生活を送っていたスティーヴンだが、遂に財産が底を付き、労働者階級の仲間入りをすることに。
彼が一番心配していたのは、生活の糧を稼がねばならないことよりも、従僕として長年仕えてくれたブリッジャーのことでした。
しかし有能なブリッジャーは、主人に打ち明けられる前に事態を察し、既に主人が従僕として働くことになっているウェントリンガム・ホールの庭師の職を手に入れていたのです。

後顧の憂いなく無事ウェントリンガム・ホールの仕事に就いたスティーヴンでしたが、女主人のレディー・スーザンは噂どおりの難物、その上上役である執事のマーティンとは、初対面からそりが合わない。
それでもなんとか仕事を始めたものの、客として現れたのが、ずっと好意を抱いていたポーリーンだとは!そして彼女をエスコートしている俗物そのものの男がフィアンセと聞かされ、一気にどん底へと落ち込んでしまいます。

いくつもの謎が入り組み、巧妙な伏線が至る所に張り巡らされた本書は、バークリーの著作の中でも一級品と呼べるでしょう。降霊会の最中に消えたシシリー、隠し部屋に漂う香水の匂い、そしてポーリーンとのロマンスと、読みどころが満載です。

そして、何より嬉しかったのは読後感の良さ。買うかどうかずっと迷っていましたが、ホントに買って良かった~。

そうそう、スティーヴンとブリッジャーの関係は、かのウッドハウス描くところの「ジーヴス」を髣髴とさせますが、バークリー自身、デビュー当時はウッドハウスを目標としていたらしいです。でも、こちらのブリッジャーはジーヴスよりもずっと従順で控えめですが(笑)。

ともあれ、古きよき英国ミステリを好まれる方にはお勧めの1冊であります。

 


シシリーは消えた シシリーは消えた
アントニイ バークリー (2005/02)
原書房
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プリーストリー氏の問題 

A・B・コックス/著 小林晋/訳 晶文社

落ち着いた居心地の良い独身生活を送るプリーストリー氏。しかし友人に言わせれば
「君はキャベツだ!蕪だ!ペポカボチャのカタツムリ野郎だ!」
となってしまいます。その友人に対し、「結婚を控えているのだから精神が高揚しているのだろう」と怒りもしないプリーストリー氏は本当に紳士ですねえ。

いや、傍から見れば退屈至極でも、本人がこれで満足しているんだからほおっておけば良いものを…内輪のパーティーでのちょっとした話から、警察まで巻き込んだとんでもない悪ふざけにまで発展してしまいます。
悪ふざけの首謀者ネズビット氏曰く「分別の最大の長所は、時々それを失うことができるということ」ですからねえ…でも失いすぎだってば(笑)。

スラップスティックと言いたいくらいのコメディーですが、上品に抑えてあるのは流石1927年のイギリス小説。先が読めてしまう展開だけれど、それでも充分に面白い!

そうか、今気づきましたがウッドハウスと同時代なのですね。なんか納得。

著者は推理物では「アンソニー・バークリー」心理ミステリでは「フランシス・アイルズ」と筆名を使い分けていますが、この「A・B・コックス」が本名だそうです。そして本書は、この名で書かれた最後の長編でもあります。でもこれ以前に出版された作品は全て未訳なのですよね…是非邦訳出版して頂きたいものです。

プリーストリー氏の問題 プリーストリー氏の問題
A.B.コックス、小林 晋 他 (2004/12)

晶文社
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ポケットから出てきたミステリー 

カレル・チャペック/著 田才益夫/訳 晶文社

この本は、数人の男性が殺人から盗難、詐欺などのあらゆる事件について、前の人の話から連想されたテーマで次の人が語り始める形式になっています。

でもこれは謎解きではなく、事件の経緯や犯罪を犯した人の信念、心情をユーモラスに、時にシニカルに綴っているので、事件そのものは重くてもとても爽やかな読後感。サボテンを宗教のように崇めるマニアたち、誘拐された赤ん坊の見分け方、判読不能な電報によって引き起こされた家族内の騒動など、人情味溢れた作品ばかりの、折に触れ何度も読み返したくなるような、笑いと美しい人間性に溢れた小品集です。

特に「人間の最後のもの」は、生きる意味そのものを問いかける、しかし押し付けがましさを微塵も感じさせない素晴らしい作品でした。

ポケットから出てきたミステリー ポケットから出てきたミステリー
カレル チャペック (2001/11)
晶文社
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よしきた、ジーヴス 

P・G・ウッドハウス/著 森村たまき/訳 国書刊行会 遂にバーティーの反乱です。理由は「独裁者ジーヴスからお気に入りのメスジャケットを守るため」。 ちなみに“メスジャケット”とは『夏季外洋航路における船上ディナーパーティーなどに用いられることがある。もともとは海軍の礼装のひとつで、正式ディナーの席で着られたものである。スタイルはイブニングコートのテールの部分を切り落とした形の上着で、フロントには掛けるべきボタンがない。素材は白麻もしくは白のサマーウールを使用する。』 …だそうです。知らなかった(笑)。 以前にも紫色の(!)靴下やど派手なスパッツを、彼の助言と引き換えに処分させられた苦い記憶を持つバーティー。今回は、ジーヴスの助けを求めてきた人々に「ジーヴスはコンディションが悪い。だから自分に任せろ」と大見得を切ってしまうのです。ジーヴスの助けを借りたが最後、買ったばかりのお気に入りジャケットには二度とお目にかかれなくなること間違いなしですからね。 結果…まあ予想通りではありますが(笑)。バーティーが問題を解決しようと足掻けば足掻くほど、巻き込まれる人数も増え事は更に複雑に。いやー、面白かった! 解説には「短編のスピーディーさに慣れた読者には冗漫、冗長と感じられるかも知れない」とありましたが、個人的には長編のゆったりペースがとても気にいりました。ちょっとした描写、細かい細工の緻密なこと!ゆっくり時間をかけて楽しまねば勿体無い作品であります。 でも…「Right Ho」が「よしきた、ホー」と訳されているのにはちょっと違和感かな…。

 

よしきた、ジーヴス よしきた、ジーヴス
P.G. ウッドハウス (2005/06)
国書刊行会
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